野いちご源氏物語 三八 夕霧(ゆうぎり)

男君(おとこぎみ)は必死にかき口説かれる。
いろいろな言い方で説得しようとなさるけれど、(みや)様はただおつらく不本意(ふほんい)にお思いになる。
「私などでは話にもならないというご態度ですから恥ずかしくなります。このようなところまで無理やり入ってきたことは申し訳なく思いますが、世間は私たちを夫婦だと思っているのです。今さら否定することはできません。仕方がないとお(あきら)めください。
人生が思いどおりにならないときに川や海に身を投げる人がいると申します。ここに私の深い愛情の海がございます。飛び込んでくださいませんか。ここで死んでやろうと思ってくださいませんか」

お着物をお(つむり)までかぶって宮様は泣いていらっしゃる。
それが唯一(ゆいいつ)おできになる反撃(はんげき)だから、大将(たいしょう)様はお気の毒で無理やりなことはなさらない。
<どうしてこれほど頑固(がんこ)でいらっしゃるのだろう。気の強い女でもここまで来れば少しは態度をやわらげるものなのに。結ばれない運命が先にあって、それに合わせて私に好意を持たないようなお心でお生まれになったのだろうか>

どうお考えになっても答えなど出ない。
三条(さんじょう)(てい)に残してきたご正妻(せいさい)のことが気になってしまわれる。
<長年隠し事もなく相思(そうし)相愛(そうあい)だった。すっかり信頼して私を頼りにしてくれていたのに。私の浮気(うわき)(ごころ)のせいとはいえ、かわいそうなことをしてしまった>
そう思うと、目の前の宮様をお(なぐさ)めしようという気にもおなりになれない。
後悔と失望のため息をつきながら夜を明かされた。