夏の御殿で一息おつきになる。
「女二の宮様をあなた様が都にお連れしたそうですね。元太政大臣様のお屋敷で噂になっているそうです。どういうことなのですか」
養母の花散里の君がおっとりとお尋ねになった。
「やはり噂になっていましたか。実は亡き御息所に頼まれてしまったのです。最初はご再婚に反対しておられましたが、いよいよご最期というとき、お気が弱られたのでしょうね、ご自分が亡くなったあとは後見してほしいというようなことを仰せになりました。もともと宮様のお世話をすることは亡き衛門の督との約束でしたから、それならば結婚をということになったのです。これだけの話を世間ではあれこれ言っているのでしょう。とくにおおげさに噂するようなことでもないと思いますが、世間はそういうものですから」
余裕そうにほほえんでお答えになる。
「女二の宮様はご出家なさりたいとお思いのようですから、ふつうの結婚生活ではないのです。ご出家なさるにせよなさらないにせよ、衛門の督の遺言を守ってお世話だけは続けるつもりでいます。父君も気になさっておいででしょう。こちらにお越しになりましたら、養母君からもそうお伝えください。この年になって浮気沙汰とはとお叱りを受けそうですが、男女のことはどなたに何を言われても、自分の思いどおりにさえならないことです」
気を遣わなくてよい養母君の前では、少年に戻ったようにいたずらっぽくお話しになる。
「女房が間違って聞いてきたのではと思っておりましたけれど、本当だったのですね。浮気なんてよくあるお話とはいえ、三条邸の姫君がお気の毒です。これまで唯一のご正妻としてのんびりお過ごしでしたのに」
「ずいぶんかわいらしく呼んでくださるのですね。鬼のように恐ろしい姫君ですけれど。しかし妻のこともおろそかにはいたしませんからご安心ください。
妻ももう少し穏やかでいてくれたらと思うのです。口うるさい女は最初のうちはこちらも気を遣いますが、ずっと遠慮はしていられません。何か起きれば憎みあうことになりましょう。その点、六条の院の女君たちは皆様ご立派でいらっしゃいます。紫の上も養母君もお手本のようなお心がけをしておられます」
熱心におほめになるので、花散里の君は苦笑いなさる。
「あら、それ以上おっしゃるとだんだん私の悪口になってまいりませんか。『夫に放っておかれても平気そうでご立派だ』なんて」
くすくす笑ってお続けになる。
「それにしても不思議ですね、源氏の君はご自分の浮気癖を棚に上げて、ほんの少し浮気なさったあなたを一大事とばかりにお責めになる。立派なことを言う人ほど自分のことが見えていないものです」
「おっしゃるとおりです。いつも男女のことについてありがたいお説教を頂戴しますが、私は私で十分気をつけているつもりですのに」
大将様もご一緒にお笑いになる。
「女二の宮様をあなた様が都にお連れしたそうですね。元太政大臣様のお屋敷で噂になっているそうです。どういうことなのですか」
養母の花散里の君がおっとりとお尋ねになった。
「やはり噂になっていましたか。実は亡き御息所に頼まれてしまったのです。最初はご再婚に反対しておられましたが、いよいよご最期というとき、お気が弱られたのでしょうね、ご自分が亡くなったあとは後見してほしいというようなことを仰せになりました。もともと宮様のお世話をすることは亡き衛門の督との約束でしたから、それならば結婚をということになったのです。これだけの話を世間ではあれこれ言っているのでしょう。とくにおおげさに噂するようなことでもないと思いますが、世間はそういうものですから」
余裕そうにほほえんでお答えになる。
「女二の宮様はご出家なさりたいとお思いのようですから、ふつうの結婚生活ではないのです。ご出家なさるにせよなさらないにせよ、衛門の督の遺言を守ってお世話だけは続けるつもりでいます。父君も気になさっておいででしょう。こちらにお越しになりましたら、養母君からもそうお伝えください。この年になって浮気沙汰とはとお叱りを受けそうですが、男女のことはどなたに何を言われても、自分の思いどおりにさえならないことです」
気を遣わなくてよい養母君の前では、少年に戻ったようにいたずらっぽくお話しになる。
「女房が間違って聞いてきたのではと思っておりましたけれど、本当だったのですね。浮気なんてよくあるお話とはいえ、三条邸の姫君がお気の毒です。これまで唯一のご正妻としてのんびりお過ごしでしたのに」
「ずいぶんかわいらしく呼んでくださるのですね。鬼のように恐ろしい姫君ですけれど。しかし妻のこともおろそかにはいたしませんからご安心ください。
妻ももう少し穏やかでいてくれたらと思うのです。口うるさい女は最初のうちはこちらも気を遣いますが、ずっと遠慮はしていられません。何か起きれば憎みあうことになりましょう。その点、六条の院の女君たちは皆様ご立派でいらっしゃいます。紫の上も養母君もお手本のようなお心がけをしておられます」
熱心におほめになるので、花散里の君は苦笑いなさる。
「あら、それ以上おっしゃるとだんだん私の悪口になってまいりませんか。『夫に放っておかれても平気そうでご立派だ』なんて」
くすくす笑ってお続けになる。
「それにしても不思議ですね、源氏の君はご自分の浮気癖を棚に上げて、ほんの少し浮気なさったあなたを一大事とばかりにお責めになる。立派なことを言う人ほど自分のことが見えていないものです」
「おっしゃるとおりです。いつも男女のことについてありがたいお説教を頂戴しますが、私は私で十分気をつけているつもりですのに」
大将様もご一緒にお笑いになる。



