宮様はお部屋の奥の方に隠れていらっしゃる。
とはいえこじんまりとした建物だから、大将様のところまでご気配が伝わってくるの。
そっとお動きになったときのお着物の音に、大将様はどきどきなさる。
御息所からのお返事がしばらく届かないときに、女房にご不満をおっしゃった。
「こうしてご訪問をつづけて二年半になるけれど、宮様はいつまでも私を簾の中に入れてくださいませんね。簾越しに女房を通して、やっとほんの少しお話しさせていただける。これがふつうなのだろうか。『あれで満足しているなんてずいぶん昔風な鈍くさい男だ』と、あなたたちに笑われているのではないかと恥ずかしい。
私は経験がないのですよ。若くて身分の軽かったころに少しは女遊びをしておけばよかった。そうすればもっと物慣れた態度でいられただろうに。まったく、この年になってこれほど生真面目で馬鹿正直な男はいないだろう」
とはいえこじんまりとした建物だから、大将様のところまでご気配が伝わってくるの。
そっとお動きになったときのお着物の音に、大将様はどきどきなさる。
御息所からのお返事がしばらく届かないときに、女房にご不満をおっしゃった。
「こうしてご訪問をつづけて二年半になるけれど、宮様はいつまでも私を簾の中に入れてくださいませんね。簾越しに女房を通して、やっとほんの少しお話しさせていただける。これがふつうなのだろうか。『あれで満足しているなんてずいぶん昔風な鈍くさい男だ』と、あなたたちに笑われているのではないかと恥ずかしい。
私は経験がないのですよ。若くて身分の軽かったころに少しは女遊びをしておけばよかった。そうすればもっと物慣れた態度でいられただろうに。まったく、この年になってこれほど生真面目で馬鹿正直な男はいないだろう」



