野いちご源氏物語 三八 夕霧(ゆうぎり)

都のお屋敷にご到着なさると、そこには悲しさなんて少しも(ただよ)っていない。
人気(ひとけ)が多くて、以前とはまったく違う様子になっている。
乗り物からお降りになる準備が整っても、とてもご実家に戻ったとはお思いになれない。
こんなお屋敷は嫌なの。
すぐにお降りにはならない。
<子どもっぽくすねていらっしゃるなんて>
女房(にょうぼう)たちは困ってしまう。
大将(たいしょう)様は東の離れをご自分のお部屋と決めて、すっかり婿君(むこぎみ)のお顔をなさっている。

正妻(せいさい)のところでは、女房たちが騒いでいる。
「急にとんでもない方にお話が進みましたね。いつご結婚なさっていたのでしょう」
堅物(かたぶつ)風流(ふうりゅう)を好まない男性ほど唐突(とうとつ)なことをなさるものだけれど。とはいえ、ご関係自体はずっと昔からということでしょうね」
「そんな気配(けはい)も見せずに秘密にしていらっしゃったなんて」
まさか(おんな)()(みや)様がまだ拒否なさっているとは思わない。
いずれにせよ宮様はお気の毒な状況でいらっしゃる。