いよいよお引越しの日、大将様は乗り物やお供を小野に派遣なさって、宮様のお屋敷でお戻りを待っておられる。
宮様は帰りたくないとおっしゃるから、女房たちがおなだめする。
大和の守も申し上げる。
「このままこちらでお暮らしになるわけにはまいりません。母君を亡くされてお心細いご様子でいらっしゃいましたから、これまでは私がお世話させていただきました。しかしもう大和国での仕事に戻らなければならないのです。大将様の他にご生活のお世話をお願いできる方はありません。
ご再婚と思えばたしかに軽々しくお勧めできませんが、とはいえ、ご身分の高い女性の不本意なご結婚は昔から多くあったものでございます。宮様だけが世間の非難をお受けになるわけではありません。
おひとりでもやっていけるとお思いになりますのは、幼いお考えでございましょう。どれだけ堂々となさいましても、女性ひとりでご自分を守り、周りを警戒することなどおできになりません。やはり大将様にお世話されてこそ内親王として堂々とお暮らしになれるのです。宮様が具体的にどのようにお暮らしになりたいかはその後の問題です」
はっきりとご意見してから、女房たちを責める。
「こんなことはあなた方から申し上げておくべきことでしょう。大将様を平気で宮様に近づけるようなことはしておきながら、嫌われ役はしないのだから」
と少将の君をにらむ。
女房にも大和の守にもあれこれ言われて、宮様はやっとお着替えをなさる。
喪服から色鮮やかなお着物をお召しになるのがおつらい。
切って尼になりたいとお思いの黒髪は、このところのお疲れで少し細くなったけれど、長く豊かなの。
それでもご自分では老けたようにお思いになる。
<ひどく衰えてしまった。結婚などできる姿ではない。何から何までつらい>
また伏してしまわれる。
「ご出発のお時間です。夜が更けてしまいますので」
お供たちが騒がしい。
時雨が風に流されるように吹いているのが悲しい。
「母君の火葬の煙と一緒に空に上がってしまいたかった。そうすれば不本意なところへ流れていかなくてもよいのに」
とつぶやかれる。
ご出家の望みは捨てておられない。
ただ、女房たちも警戒して、はさみなどを隠してしまっている。
<私などたいした価値のある身でもないのに。そこまでしなくても、自分で髪を切って尼になどなりはしない。余計に世間体が悪いではないか>
内親王としての自尊心がおありになるから、女房たちの警戒を苦々しくも腹立たしくもお思いになる。
女房や家来がどんどんお引越しの準備を進める。
お道具も運び出されていくから、宮様だけがお残りになるわけにもいかなくて、泣く泣く乗り物にお乗りになった。
いつもならお隣には母御息所がお座りだったの。
<この別荘に来たときは、ご病気でお苦しいにもかかわらず、私の髪をなでて整えて、乗り物から手を引いて降ろしてくださった>
母君の代わりに、お形見のお経を入れた箱をおそばに置かれる。
<母君が忘れられなくて、この箱を見るたび涙がこぼれる>
美しい細工がしてある経箱だけれど、宮様のお目には涙でくもって映る。
宮様は帰りたくないとおっしゃるから、女房たちがおなだめする。
大和の守も申し上げる。
「このままこちらでお暮らしになるわけにはまいりません。母君を亡くされてお心細いご様子でいらっしゃいましたから、これまでは私がお世話させていただきました。しかしもう大和国での仕事に戻らなければならないのです。大将様の他にご生活のお世話をお願いできる方はありません。
ご再婚と思えばたしかに軽々しくお勧めできませんが、とはいえ、ご身分の高い女性の不本意なご結婚は昔から多くあったものでございます。宮様だけが世間の非難をお受けになるわけではありません。
おひとりでもやっていけるとお思いになりますのは、幼いお考えでございましょう。どれだけ堂々となさいましても、女性ひとりでご自分を守り、周りを警戒することなどおできになりません。やはり大将様にお世話されてこそ内親王として堂々とお暮らしになれるのです。宮様が具体的にどのようにお暮らしになりたいかはその後の問題です」
はっきりとご意見してから、女房たちを責める。
「こんなことはあなた方から申し上げておくべきことでしょう。大将様を平気で宮様に近づけるようなことはしておきながら、嫌われ役はしないのだから」
と少将の君をにらむ。
女房にも大和の守にもあれこれ言われて、宮様はやっとお着替えをなさる。
喪服から色鮮やかなお着物をお召しになるのがおつらい。
切って尼になりたいとお思いの黒髪は、このところのお疲れで少し細くなったけれど、長く豊かなの。
それでもご自分では老けたようにお思いになる。
<ひどく衰えてしまった。結婚などできる姿ではない。何から何までつらい>
また伏してしまわれる。
「ご出発のお時間です。夜が更けてしまいますので」
お供たちが騒がしい。
時雨が風に流されるように吹いているのが悲しい。
「母君の火葬の煙と一緒に空に上がってしまいたかった。そうすれば不本意なところへ流れていかなくてもよいのに」
とつぶやかれる。
ご出家の望みは捨てておられない。
ただ、女房たちも警戒して、はさみなどを隠してしまっている。
<私などたいした価値のある身でもないのに。そこまでしなくても、自分で髪を切って尼になどなりはしない。余計に世間体が悪いではないか>
内親王としての自尊心がおありになるから、女房たちの警戒を苦々しくも腹立たしくもお思いになる。
女房や家来がどんどんお引越しの準備を進める。
お道具も運び出されていくから、宮様だけがお残りになるわけにもいかなくて、泣く泣く乗り物にお乗りになった。
いつもならお隣には母御息所がお座りだったの。
<この別荘に来たときは、ご病気でお苦しいにもかかわらず、私の髪をなでて整えて、乗り物から手を引いて降ろしてくださった>
母君の代わりに、お形見のお経を入れた箱をおそばに置かれる。
<母君が忘れられなくて、この箱を見るたび涙がこぼれる>
美しい細工がしてある経箱だけれど、宮様のお目には涙でくもって映る。



