野いちご源氏物語 三八 夕霧(ゆうぎり)

大将(たいしょう)六条(ろくじょう)(いん)に来たら、(おんな)()(みや)様とのことを尋ねてみよう>
源氏(げんじ)(きみ)はお思いになる。
でも、あからさまな言い方は気が引けて、亡き御息所(みやすんどころ)のことからさりげなく切り出された。
「御息所の四十九日(しじゅうくにち)はもうそろそろだろうか。お亡くなりになったと聞いてからあっという間だった。あっけないものだ。私ものんびりしていてはいけないな。出家(しゅっけ)したいと思いながらなんだかんだでできずにいるが、いつ死ぬか分からないのだから」

「この世を捨てるのはたいしたことのない身分の者でも簡単ではないようですから、父君(ちちぎみ)()()れないのはごもっともでございます。
御息所の四十九日のご法要(ほうよう)は、御息所の(おい)大和(やまと)(かみ)がなんとか一人で準備しております。とくに力のあるご親族はいらっしゃらないようで、ご存命(ぞんめい)の間はともかく、お亡くなりになったあとは寂しいお(あつか)いを受けておいでです」

「とはいえ入道(にゅうどう)上皇(じょうこう)様からもご弔問(ちょうもん)はあるだろう。更衣(こうい)として内裏(だいり)におられたころはそれほど評判になるような方ではなかったが、やはり(すぐ)れた方だったのだろうね。未亡人(みぼうじん)になられた女二の宮様のお世話もしっかりなさっていたと聞く。立派な人ほど早く亡くなってしまうものだな。
そんな方だから上皇様もお悲しみのはずだ。内親王(ないしんのう)母君(ははぎみ)でいらっしゃるのだしね。女二の宮様のことは、こちらにいらっしゃる女三の宮様の次にかわいがっておられた。お人柄(ひとがら)のよい宮様なのだろう」

「どのような宮様かは存じませんが、御息所は欠点のない方のようにお見受けいたしました。もちろん親しくさせていただくことはございませんでしたでしたが、ちょっとしたことでもお人柄というものは表れてまいりますので」
宮様のことは話題になさらない。
<この男が決めたのなら、私が意見したところで聞かないだろう。正論(せいろん)を言っても無駄(むだ)だ>
源氏の君は見守るしかないとお(あきら)めになった。