野いちご源氏物語 三八 夕霧(ゆうぎり)

日が高くなってからお返事が届いた。
紫色の無難(ぶなん)な紙に、少将(しょうしょう)(きみ)が書いたものだった。
(みや)様はお返事をお書きになりません」というのはいつもどおりだったけれど、そのあとに、
「あまりに大将(たいしょう)様がお気の毒でございますから、宮様がほんの少しお書きになったものをこっそりお入れいたします」
とあった。

<お手紙を読んでくださったのだ>
とよろこんでいらっしゃるのも体裁(ていさい)の悪いお話よね。
少将の君がちぎって入れた紙は、誰に見せるためでもないから、読みやすくは書かれていない。
「涙が滝のようで」
とある。
他にも昔の和歌などが思いつくまま書かれていて、悲しみが伝わるご筆跡(ひっせき)にも大将様は感動なさる。

<他人が恋に夢中になっているのを正気(しょうき)を失っていると思っていたが、自分のことになると、本当に()えられないほど苦しいのだと分かった。こんなに夢中になってはいけない>
と思うけれど、今さら正気にはお戻りになれない。