野いちご源氏物語 三八 夕霧(ゆうぎり)

正妻(せいさい)雲居(くもい)(かり)はただご不安でいらっしゃる。
<お心がすっかり移ってしまわれたらしい。妻ならこのくらいのことはおおらかに受け止めるべきだと大将(たいしょう)様はお考えなのだろう。六条(ろくじょう)(いん)女君(おんなぎみ)たちのことをたびたびおほめになるのだもの。でもあちらの女君たちは、もともと源氏(げんじ)(きみ)の浮気に慣れていらっしゃるのだから、そういう方たちと比べて、私のことを心の(せま)い女とお思いになるのはひどいではないか。

最初からあちこちに恋人がいる夫だったら、私もそういうものだと割り切って、世間の(うわさ)など気にせず落ち着いて過ごせただろう。『一途(いちず)で理想的な夫と結婚したものだ』とこれまで親兄弟も世間もほめたたえてくれていたのに、結婚して十年以上 ()ってからこんなに恥ずかしい目に()うなんて>
と、ひどくお(なげ)きになっている。

明け方近くなってもどちらからも本心(ほんしん)を言い出されることはなく、お心は遠く離れている。
男君(おとこぎみ)は早朝にお手紙をいそいでお書きになる。
女君(おんなぎみ)はご不快(ふかい)だけれど、いつかのように取り上げることはなさらない。
細々(こまごま)とお書きになった文章の一部を小声でつぶやかれる。
女君のお耳に届いたところでは、
「悪い夢からいったいいつ起こしてさしあげたらよいのでしょうか。何もおっしゃってくださらないので見当(けんとう)もつきません」
というような文章だった。

お手紙を包んで、「どうしたら折れてくださるのか」とつぶやかれる。
家来を読んでお預けになった。
(おんな)()(みや)様からのお返事を拝見できれば、どのようなご関係か分かるだろうに>
女君はじれったくお思いになっている。