秋になった。
<小野の山里の景色はさぞかし美しいだろう。宮様はどうしておられるだろうか>
大将様はさりげなく雲居の雁におっしゃる。
「有名な僧侶がめずらしく山のお寺から下りてきているそうでね。仏教のことで教えてもらいたいことがあるから、女二の宮様の母御息所をお見舞いがてら、僧侶のところに行こうと思います」
あくまでも僧侶に会うのが目的のようにおっしゃってお出かけなさる。
お供は大げさになさらない。
親しい家来を五、六人だけお連れになる。
小野はそれほど山奥ではないけれど、秋らしい景色がすばらしい。
こういうところの素朴な別荘は、都の豪華なお屋敷よりも風情があるものよね。
一時的なお住まいだけれど上品にお暮らしになっている。
母屋の一部に僧侶がお祈りをする場所がつくられていた。
少し離れたところに御息所のご病室があって、宮様のお部屋はご病室からできるだけ離れたところにある。
もともと母御息所は、
「病気の私には妖怪が憑りついています。それが宮様に乗り移ってはいけませんから」
とおひとりで別荘に移るおつもりだったのだけれど、宮様が母君と離れるのを嫌がってついていらっしゃったの。
せめてもの予防で、宮様がご病室に入ることはお許しにならない。
こじんまりとした別荘だから、お客様をおもてなしするお部屋はない。
宮様のお部屋の縁側に大将様の客席が用意された。
上級の女房が客席とご病室を行ったり来たりして、大将様と御息所のお話を取り次いでいる。
「ご丁寧なお手紙を頂戴しました上、このようなところまでお越しいただきまして、もったいないことでございます。あっさり死んでしまったらお礼も申し上げられないと思いまして、なんとか今日まで生きながらえておりました」
「こちらへお移りになるときにお供させていただこうと思ったのですが、どうしても外せない用事がありまして失礼いたしました。ご心配申し上げておりましたものの、何かと忙しくお見舞いに上がるのが遅れまして、薄情者とお思いではないかと心苦しゅうございます」
などと大将様は優しくおっしゃる。
<小野の山里の景色はさぞかし美しいだろう。宮様はどうしておられるだろうか>
大将様はさりげなく雲居の雁におっしゃる。
「有名な僧侶がめずらしく山のお寺から下りてきているそうでね。仏教のことで教えてもらいたいことがあるから、女二の宮様の母御息所をお見舞いがてら、僧侶のところに行こうと思います」
あくまでも僧侶に会うのが目的のようにおっしゃってお出かけなさる。
お供は大げさになさらない。
親しい家来を五、六人だけお連れになる。
小野はそれほど山奥ではないけれど、秋らしい景色がすばらしい。
こういうところの素朴な別荘は、都の豪華なお屋敷よりも風情があるものよね。
一時的なお住まいだけれど上品にお暮らしになっている。
母屋の一部に僧侶がお祈りをする場所がつくられていた。
少し離れたところに御息所のご病室があって、宮様のお部屋はご病室からできるだけ離れたところにある。
もともと母御息所は、
「病気の私には妖怪が憑りついています。それが宮様に乗り移ってはいけませんから」
とおひとりで別荘に移るおつもりだったのだけれど、宮様が母君と離れるのを嫌がってついていらっしゃったの。
せめてもの予防で、宮様がご病室に入ることはお許しにならない。
こじんまりとした別荘だから、お客様をおもてなしするお部屋はない。
宮様のお部屋の縁側に大将様の客席が用意された。
上級の女房が客席とご病室を行ったり来たりして、大将様と御息所のお話を取り次いでいる。
「ご丁寧なお手紙を頂戴しました上、このようなところまでお越しいただきまして、もったいないことでございます。あっさり死んでしまったらお礼も申し上げられないと思いまして、なんとか今日まで生きながらえておりました」
「こちらへお移りになるときにお供させていただこうと思ったのですが、どうしても外せない用事がありまして失礼いたしました。ご心配申し上げておりましたものの、何かと忙しくお見舞いに上がるのが遅れまして、薄情者とお思いではないかと心苦しゅうございます」
などと大将様は優しくおっしゃる。



