秋の山里の景色は美しいけれど物悲しい。
別荘からは僧侶がお経を読む声ばかりが聞こえて、人の気配はほとんど感じられない。
いよいよ寂しいお住まいに見えるの。
大将様は宮様のお部屋の前の濡れ縁にお上がりになった。
美しいお着物をお召しで、まぶしい夕日を扇でさえぎっていらっしゃる。
女房たちはうっとりする。
<女なら誰でもこうありたいと思うようなお美しさだけれど、ここまで美しい女などめったにいない。拝見しているだけでも幸せになれそうだ>
大将様は少将の君という女房をお呼びになった。
濡れ縁から簾をはさんですぐのところに宮様がいらっしゃるようだから、大将様は声をひそめて少将の君にお話しになる。
「もう少しこちらに。警戒せずともよい。こんな山里まで霧のなかやって来たのだから、真剣であることは分かるだろう」
少将の君はためらうけれど、大将様が何度もおっしゃるので仕方なく濡れ縁に出てきた。
ついたてを出して、その奥に座っている。
この人は亡き御息所の姪で、幼いころから御息所にお仕えしていた。
だから濃い色の喪服を着ている。
「宮様のお悲しみはごもっともだが、どれだけお手紙をお送りしてもお返事がいただけないので、私もつらくなってしまった。魂が抜けてしまったようになったから、会う人会う人に不思議がられている。もうこれ以上は我慢できないのだ。御息所からも結婚を許すというようなお手紙を頂戴したのに」
ひどくお泣きになる。
少将の君も泣きながらお返事する。
「お手紙をお書きになった夜、御息所は大将様のご訪問をお待ちでございました。それがご訪問どころかお返事さえなく、お苦しみになりながら宮様のご不運をお嘆きだったのです。外が暗くなりますと本当にもうお越しにならないのだと落胆なさいまして、そこに妖怪が本気を出したようでございます。婿君がお亡くなりになったときは、宮様をお支えしなければとお気を強くお持ちになっていましたが、今回は力尽きてしまわれたのでしょう。
宮様と御息所は一心同体と申し上げてもよいような母娘でいらっしゃいましたから、母君がお亡くなりになって、宮様はご自分も亡くなったかのように茫然とお暮らしなのでございます」
涙をぬぐいながらなんとか申し上げるけれど、大将様は現実的でいらっしゃる。
「そこなのだ。母君がお亡くなりになってご自分までぼけてしまわれるのは幼すぎるお心だろう。恐れ多い物言いだが、これからどなたを頼って生きていかれるおつもりなのだ。入道の上皇様はご出家の身であられるのだから、ふつうの父親のようなお世話は期待できない。やはり私がお世話してさしあげるのが一番よいだろう。私に対して冷淡なご態度をおとりにならないようにと、あなたから宮様に申し上げてください。
そうなるくらいならいっそ死にたいとお思いになっても、そううまくはいきません。命が思いどおりになるのなら、そもそも母君とのお別れだってなかったはずではないか」
正論をおっしゃるけれど、少将の君はお返事のしようもない。
ただ悲しんでいる。
鹿が激しく鳴く。
「鹿だけではありませんよ。遠い小野までやって来て冷たく追い払われては、私も泣きたい」
大将様が悲しそうにつぶやかれるので、
「喪服を着た私もこの山里でずっと泣いております」
とかろうじてお返事した。
場の雰囲気にあった同情できる返事だと大将様はお思いになる。
宮様に大将様のお言葉をお伝えするけれど、宮様はお返事なさるおつもりはない。
「まだ悪い夢から覚めませんから、落ち着きましたらお見舞いのお礼を申し上げます」
と言い切って、話を終わらせてしまわれる。
<お優しさのかけらもない>
嘆きながら大将様はお帰りになった。
別荘からは僧侶がお経を読む声ばかりが聞こえて、人の気配はほとんど感じられない。
いよいよ寂しいお住まいに見えるの。
大将様は宮様のお部屋の前の濡れ縁にお上がりになった。
美しいお着物をお召しで、まぶしい夕日を扇でさえぎっていらっしゃる。
女房たちはうっとりする。
<女なら誰でもこうありたいと思うようなお美しさだけれど、ここまで美しい女などめったにいない。拝見しているだけでも幸せになれそうだ>
大将様は少将の君という女房をお呼びになった。
濡れ縁から簾をはさんですぐのところに宮様がいらっしゃるようだから、大将様は声をひそめて少将の君にお話しになる。
「もう少しこちらに。警戒せずともよい。こんな山里まで霧のなかやって来たのだから、真剣であることは分かるだろう」
少将の君はためらうけれど、大将様が何度もおっしゃるので仕方なく濡れ縁に出てきた。
ついたてを出して、その奥に座っている。
この人は亡き御息所の姪で、幼いころから御息所にお仕えしていた。
だから濃い色の喪服を着ている。
「宮様のお悲しみはごもっともだが、どれだけお手紙をお送りしてもお返事がいただけないので、私もつらくなってしまった。魂が抜けてしまったようになったから、会う人会う人に不思議がられている。もうこれ以上は我慢できないのだ。御息所からも結婚を許すというようなお手紙を頂戴したのに」
ひどくお泣きになる。
少将の君も泣きながらお返事する。
「お手紙をお書きになった夜、御息所は大将様のご訪問をお待ちでございました。それがご訪問どころかお返事さえなく、お苦しみになりながら宮様のご不運をお嘆きだったのです。外が暗くなりますと本当にもうお越しにならないのだと落胆なさいまして、そこに妖怪が本気を出したようでございます。婿君がお亡くなりになったときは、宮様をお支えしなければとお気を強くお持ちになっていましたが、今回は力尽きてしまわれたのでしょう。
宮様と御息所は一心同体と申し上げてもよいような母娘でいらっしゃいましたから、母君がお亡くなりになって、宮様はご自分も亡くなったかのように茫然とお暮らしなのでございます」
涙をぬぐいながらなんとか申し上げるけれど、大将様は現実的でいらっしゃる。
「そこなのだ。母君がお亡くなりになってご自分までぼけてしまわれるのは幼すぎるお心だろう。恐れ多い物言いだが、これからどなたを頼って生きていかれるおつもりなのだ。入道の上皇様はご出家の身であられるのだから、ふつうの父親のようなお世話は期待できない。やはり私がお世話してさしあげるのが一番よいだろう。私に対して冷淡なご態度をおとりにならないようにと、あなたから宮様に申し上げてください。
そうなるくらいならいっそ死にたいとお思いになっても、そううまくはいきません。命が思いどおりになるのなら、そもそも母君とのお別れだってなかったはずではないか」
正論をおっしゃるけれど、少将の君はお返事のしようもない。
ただ悲しんでいる。
鹿が激しく鳴く。
「鹿だけではありませんよ。遠い小野までやって来て冷たく追い払われては、私も泣きたい」
大将様が悲しそうにつぶやかれるので、
「喪服を着た私もこの山里でずっと泣いております」
とかろうじてお返事した。
場の雰囲気にあった同情できる返事だと大将様はお思いになる。
宮様に大将様のお言葉をお伝えするけれど、宮様はお返事なさるおつもりはない。
「まだ悪い夢から覚めませんから、落ち着きましたらお見舞いのお礼を申し上げます」
と言い切って、話を終わらせてしまわれる。
<お優しさのかけらもない>
嘆きながら大将様はお帰りになった。



