野いちご源氏物語 三八 夕霧(ゆうぎり)

山から吹いてくる風が別荘のお庭に吹き荒れる。
()()がすっかり散って物悲しい雰囲気のなか、(みや)様はお(なげ)きになっている。
母君(ははぎみ)の後を追って死にたいと思っているのに、その願いさえ(かな)わないとは>
嫌な命だとお思いになる。
女房(にょうぼう)たちも悲しさで悩みが()きない。

大将(たいしょう)様からは毎日お使者(ししゃ)がやって来る。
亡き御息所(みやすんどころ)のためのお(きょう)を読む僧侶(そうりょ)にはご褒美(ほうび)をお与えになり、宮様には優しいお手紙をお送りになる。
恋心を(うった)えるお手紙もお見舞いのお手紙もあるけれど、宮様はご覧にならない。
<母君は私と大将様が深い関係になったと信じこんだままお亡くなりになった。(くや)しくてご成仏(じょうぶつ)もおできにならないのではないか。その大将様のことなど、お名前を聞くだけでもつらい>
お手紙が届いたことをお伝えするだけで涙ぐんでしまわれるから、女房たちもどうしたらよいか困っている。

宮様からは一行(いちぎょう)のお返事も届かない。
初めのうちは仕方がないと思っていらしたけれど、あまりに続くと(うら)めしくおなりになる。
<いくらお悲しみでも限度があるだろう。このご態度はあまりに子どもっぽい。のんきに浮かれたお手紙を差し上げているわけではないのだ。お心に寄り添おうとする人のことはうれしくお思いになるのがふつうではないか>

祖母君(そぼぎみ)大宮(おおみや)様がお亡くなりになったときのことを思い出される。
<亡き母君の代わりに私を元服(げんぷく)までお育てくださったのは大宮様だったから、お別れはとても悲しかった。実のご子息(しそく)である元太政(だいじょう)大臣(だいじん)様はそれほどお悲しみでもないご様子で、人目(ひとめ)につくご法要(ほうよう)だけを派手になさった。私はそれに不満だったが意見できるはずもない。しかし父君(ちちぎみ)は私と同じお気持ちで、大宮様の婿(むこ)として丁寧なご法要をしてくださったのだ。それがどれほどうれしかったことか。

亡き衛門(えもん)(かみ)もそうだった。同じ祖母を亡くした従兄弟(いとこ)として、私に寄り添って一緒に悲しんでくれた。落ち着いた性格で考えも深かったから、人の痛みがよくわかったのだろう。それに比べて宮様はあまりにご冷淡(れいたん)だ>
ぐずぐずとお考えになりながら過ごしていらっしゃる。