野いちご源氏物語 三八 夕霧(ゆうぎり)

この騒ぎのなかに大将(たいしょう)様からのお手紙が届いた。
御息所(みやすんどころ)は少し息を吹きかえされる。
<あぁ、今夜もお越しにならないらしい。(みや)様は捨てられてしまわれるのだ。無駄(むだ)な手紙まで送ってしまったことよ>
また遠のいていく意識のなかで最後までお悩みになって、そのままお亡くなりになった。

妖怪(ようかい)が亡くなったように見せかけているだけではないかとお祈りが続くけれど、どんどん死んだ人のお顔になっていかれる。
宮様は私も死んでしまいたいと母君(ははぎみ)に寄り添っておられる。
「もうどうしようもございません。亡くなった方はお戻りになりませんから」
女房(にょうぼう)たちが口々に申し上げる。

それでも宮様はお離れにならない。
「宮様にまで何かあってはいけません。御息所のご成仏(じょうぶつ)(さまた)げにもなりましょう。どうかお部屋にお戻りください」
と、女房がお体をお支えしようとする。
宮様は少しも動くことがおできにならない。
全身から力が抜けて茫然(ぼうぜん)としていらっしゃる。
僧侶たちは(あきら)めて帰り、何人かの僧侶だけがご葬儀(そうぎ)の準備をするために残っている。