野いちご源氏物語 三八 夕霧(ゆうぎり)

(ひぐらし)の鳴き声ではっと目を覚まされた。
小野(おの)御息所(みやすんどころ)はいらだっていらっしゃるだろう。昨夜届いたお手紙を、今日の夕方になってもお返ししていないのだ>
お気の毒で、どうしたらよいかお悩みになる。
いっそお手紙をなくしてしまったことにして謝ろうかと、(すみ)をすりながら文章をお考えになる。
そのときふと、敷物(しきもの)が一部ふくらんでいることにお気づきになった。
ためしにめくってごらんになる。

<ここにあったのか>
うれしくも馬鹿(ばか)馬鹿(ばか)しくも思われて、ほっとしながら開いてお読みになると、とんでもない(うら)(ごと)が書かれているの。
<一昨日の夜、(みや)様と私が深い関係になったようにお聞きになったのだ>
お胸がつぶれてお顔が青ざめる。
「昨夜は一晩中私からの返事をお待ちになっていたのだろう。どれほどおつらく思われたことか。しかもまだお返事を差し上げていない」
(くや)しくお思いになる。

お手紙からは、ひどくお苦しそうな御息所の(いき)(づか)いが伝わってくる。
<意識のぼんやりするなか、どうしても一言言ってやりたいと思ってお書きになったのだろう。それなのに私からの返事が届かないまま朝をお迎えになって、落胆(らくたん)なさったに違いない>
しかし、お気持ちをぶつける先がない。
正妻(せいさい)のお振舞いを(にく)く思われても、
<そのような思い上がった性格にしてしまったのは私だ>
とお苦しい。
情けなくて涙だけが流れる。