僧侶が帰ると、御息所は宮様の女房をお呼びになった。
「ある人からこういう話を聞いた。いったいどういうことなのだ。なぜ私に知らせなかった。宮様と大将様が深いご関係のようなことを申していたが、私には信じられない」
お気の毒なほどご心配なさっているので、女房は最初からありのままをお話し申し上げた。
「私どもは途中から少し離れたところにおりましたが、今朝届いたお手紙から想像いたしますと、御息所がご心配なさっているようなご関係にはなっていらっしゃらないように思われます。昨夜はきっと、大将様が長年の恋心を訴えなさっただけでございましょう。
人目につかないよう十分用心しておられましたし、夜明け前にご出発なさいましたのに、尾ひれをつけて誰かが妙なことを申し上げたようで」
僧侶が見ていたとは思いもしない。
女房の誰かが勝手にご報告したと思い込んでいるの。
御息所は黙りこんでしまわれた。
悔しくてほろほろと涙をこぼされる。
拝見している女房は心苦しくなって、
<何もかもお話しするべきではなかった。ご病気でお苦しいのに、さらにおつらくさせてしまった>
と後悔する。
「たしかに大将様はお部屋に入ってしまわれましたが、私が最後に拝見したときは、宮様は戸をきちんと閉めておいでで、掛け金も掛かっておりました」
少し嘘をついて、なんとかよいように申し上げるけれど、御息所は震えていらっしゃる。
「そういう問題ではない。お姿を軽率に見られてしまったというだけでいけないのだ。宮様がどれだけお胸を張っていらしたとしても、僧侶どもが勝手に推測して言いふらすだろう。何もなかったことなど証明しようがない。そなたたちがもっとしっかりしていないから」
最後までおっしゃらないうちに息が苦しくなっていかれる。
宮様を尊い内親王として気高い存在にしておかれたいのに、軽々しい噂で汚されてしまわれることをお嘆きになる。
「今日は少し具合がよいから、こちらへお越しくださるようお伝えせよ。私が宮様のところに上がるべきだが、動くことはできそうにない。ずいぶん長くお顔を拝見していないような気がする」
涙を浮かべておっしゃった。
母君ではいらっしゃるけれど宮様の方を格上としてお扱いなさる。
ここまでお弱りになっても、けっしてそのご態度を崩すことはなさらないの。
「ある人からこういう話を聞いた。いったいどういうことなのだ。なぜ私に知らせなかった。宮様と大将様が深いご関係のようなことを申していたが、私には信じられない」
お気の毒なほどご心配なさっているので、女房は最初からありのままをお話し申し上げた。
「私どもは途中から少し離れたところにおりましたが、今朝届いたお手紙から想像いたしますと、御息所がご心配なさっているようなご関係にはなっていらっしゃらないように思われます。昨夜はきっと、大将様が長年の恋心を訴えなさっただけでございましょう。
人目につかないよう十分用心しておられましたし、夜明け前にご出発なさいましたのに、尾ひれをつけて誰かが妙なことを申し上げたようで」
僧侶が見ていたとは思いもしない。
女房の誰かが勝手にご報告したと思い込んでいるの。
御息所は黙りこんでしまわれた。
悔しくてほろほろと涙をこぼされる。
拝見している女房は心苦しくなって、
<何もかもお話しするべきではなかった。ご病気でお苦しいのに、さらにおつらくさせてしまった>
と後悔する。
「たしかに大将様はお部屋に入ってしまわれましたが、私が最後に拝見したときは、宮様は戸をきちんと閉めておいでで、掛け金も掛かっておりました」
少し嘘をついて、なんとかよいように申し上げるけれど、御息所は震えていらっしゃる。
「そういう問題ではない。お姿を軽率に見られてしまったというだけでいけないのだ。宮様がどれだけお胸を張っていらしたとしても、僧侶どもが勝手に推測して言いふらすだろう。何もなかったことなど証明しようがない。そなたたちがもっとしっかりしていないから」
最後までおっしゃらないうちに息が苦しくなっていかれる。
宮様を尊い内親王として気高い存在にしておかれたいのに、軽々しい噂で汚されてしまわれることをお嘆きになる。
「今日は少し具合がよいから、こちらへお越しくださるようお伝えせよ。私が宮様のところに上がるべきだが、動くことはできそうにない。ずいぶん長くお顔を拝見していないような気がする」
涙を浮かべておっしゃった。
母君ではいらっしゃるけれど宮様の方を格上としてお扱いなさる。
ここまでお弱りになっても、けっしてそのご態度を崩すことはなさらないの。



