御息所は妖怪に苦しめられて重病だけれど、ご体調に波があって、今日は比較的ご気分がよくていらっしゃる。
お祈りをする僧侶たちは休憩に下がって、位の高い僧侶ひとりだけがおそばに残った。
ご気分がよくなったのは自分のお祈りが効いたからだとよろこんでいる。
いかにも僧侶らしい、あっけらかんとした人なので、気になっていることを遠慮なく御息所にお尋ねした。
「そういえば、大将様はいつからこちらの婿君におなりになったのですか」
「まぁ、そうではございませんよ。亡き婿君が、ご親友の大将様にいろいろと遺言なさったようで、それで大将様は今でも宮様を気にかけてくださっているのです。昨夜も私が病気とお聞きになってお見舞いにお越しくださいましたから、ありがたいことと思っております」
「いやいやいや、私にお隠しなさいますな。明け方前に宮様のお部屋あたりの戸口から大将様が出ていらっしゃいましたよ。『昨夜はこちらにお泊まりになったらしい』と他の僧侶たちも噂しております。霧が深くて私のところからはよく見えませんでしたが、とてもよい香りが漂ってきましたから、大将様で間違いありませんでしょう。あの方はいつもお着物にすばらしい香りを焚きしめておられる。
しかし、宮様がわざわざご再婚なさる必要があったのでしょうか。もちろん大将様はご立派な方ですが、ご正妻の勢力が強すぎる。元太政大臣様の姫君で、大将様とは従姉弟同士、しかもお子が七、八人いらっしゃる。いくら宮様でもとても敵われないでしょう。女が嫉妬したりされたりするのは極楽往生の妨げですからね、ご正妻に恨まれるようなことになったら恐ろしい」
「そんなはずはないと存じます。大将様はそのようなそぶりはまったくなさらない方です。昨日の夕方は私の具合があまりに悪うございましたから、夜になれば落ち着くかもしれないとお待ちになっていらしたのでしょう。女房がそんなことを申しておりました。結局夜になっても私の体調が落ち着かず、仕方なくお泊まりになっただけではありませんか。あれほど真面目な方でいらっしゃいますもの」
ほんの偶然だろうというようにおっしゃるけれど、お心のなかでは思い当たることもおありになる。
<そういう関係になってしまわれたのかもしれない。たしかにたびたび色めいたことをおっしゃってはいた。しかし、真面目で、世間に非難されることを嫌がりそうなご性格だから、宮様に手出しはなさらないだろうと安心していたのだ。昨夜は私の具合がとくにひどくて、あちらの女房が看病の手伝いにきていた。もしかしたら、人が少なくなったところを見て忍びこみなさったのでは>
想像してぞっとなさる。
お祈りをする僧侶たちは休憩に下がって、位の高い僧侶ひとりだけがおそばに残った。
ご気分がよくなったのは自分のお祈りが効いたからだとよろこんでいる。
いかにも僧侶らしい、あっけらかんとした人なので、気になっていることを遠慮なく御息所にお尋ねした。
「そういえば、大将様はいつからこちらの婿君におなりになったのですか」
「まぁ、そうではございませんよ。亡き婿君が、ご親友の大将様にいろいろと遺言なさったようで、それで大将様は今でも宮様を気にかけてくださっているのです。昨夜も私が病気とお聞きになってお見舞いにお越しくださいましたから、ありがたいことと思っております」
「いやいやいや、私にお隠しなさいますな。明け方前に宮様のお部屋あたりの戸口から大将様が出ていらっしゃいましたよ。『昨夜はこちらにお泊まりになったらしい』と他の僧侶たちも噂しております。霧が深くて私のところからはよく見えませんでしたが、とてもよい香りが漂ってきましたから、大将様で間違いありませんでしょう。あの方はいつもお着物にすばらしい香りを焚きしめておられる。
しかし、宮様がわざわざご再婚なさる必要があったのでしょうか。もちろん大将様はご立派な方ですが、ご正妻の勢力が強すぎる。元太政大臣様の姫君で、大将様とは従姉弟同士、しかもお子が七、八人いらっしゃる。いくら宮様でもとても敵われないでしょう。女が嫉妬したりされたりするのは極楽往生の妨げですからね、ご正妻に恨まれるようなことになったら恐ろしい」
「そんなはずはないと存じます。大将様はそのようなそぶりはまったくなさらない方です。昨日の夕方は私の具合があまりに悪うございましたから、夜になれば落ち着くかもしれないとお待ちになっていらしたのでしょう。女房がそんなことを申しておりました。結局夜になっても私の体調が落ち着かず、仕方なくお泊まりになっただけではありませんか。あれほど真面目な方でいらっしゃいますもの」
ほんの偶然だろうというようにおっしゃるけれど、お心のなかでは思い当たることもおありになる。
<そういう関係になってしまわれたのかもしれない。たしかにたびたび色めいたことをおっしゃってはいた。しかし、真面目で、世間に非難されることを嫌がりそうなご性格だから、宮様に手出しはなさらないだろうと安心していたのだ。昨夜は私の具合がとくにひどくて、あちらの女房が看病の手伝いにきていた。もしかしたら、人が少なくなったところを見て忍びこみなさったのでは>
想像してぞっとなさる。



