野いちご源氏物語 三八 夕霧(ゆうぎり)

こんな内緒のお出かけは慣れていらっしゃらないので、おもしろくも不安にもお思いになる。
まっすぐご自宅の三条(さんじょう)(てい)にお帰りになれば、お着物が()れていることをご正妻(せいさい)にあやしまれるだろうから、六条(ろくじょう)(いん)にお行きになる。
夏の御殿(ごてん)には養母(ようぼ)花散里(はなちるさと)(きみ)がいらっしゃる。
そこに泊まっていたことになさるおつもりなのね。

まだ朝の(きり)は晴れない。
先ほどまでいらっしゃった小野(おの)の別荘のあたりはどれほどだろうかとご想像なさる。
「めずらしい朝帰りをなさったのね」
女房(にょうぼう)たちがひそひそ話している。
少し休憩(きゅうけい)されてからお着替えなさった。
花散里の君は面倒(めんどう)()のよい養母で、いつでも大将(たいしょう)様のお着物をご用意しておられるの。
よい香りをつけてあるお着物がすぐに出てくる。
それからご朝食を召し上がって、春の御殿の源氏(げんじ)(きみ)にご挨拶(あいさつ)に上がられた。