天気……昼間は暑かったが、日が暮れると空には、ダイヤモンドのように、きらきらと輝いている美しい星がたくさん出ていた。夏の夜空の代表的な星座と言えば、こと座とわし座と白鳥座で、この三つの星座を結ぶ大三角形を見ていると、昼間の暑さも忘れるほどにロマンチックな気分になる。特に、こと座のベガと、わし座のアルタイルが天の川を隔てて、きらきらとまたたいているのを見ると、ぼくはいつも七夕伝説を思い出す。この二つの星は夏の夜の風物詩として、夏が来るたびに、ぼくは妻猫といっしょに眺めるのを楽しみにしている。
翠湖公園はカエル合唱団の仮の住まいとなった。いずれはまた田舎に帰っていくことになるだろうが、それまではゆっくりと、この公園で楽しく過ごしてもらいたいと、ぼくは思っていた。
昼間、シャワーのような通り雨が、ざーっと降った。雨がやんだあと、少し涼しくなったので、ぼくはうちから外に出て、翠湖の湖畔に沿って散歩を始めた。翠湖の中には湖面を覆いつくすようにハスの葉が広く生育していて、一雨降るごとに、ハスの葉が大きく成長していた。ハスの葉の下にカエル合唱団のメンバーがいるのが見えた。団員たちは、ゆったりと手足を動かしながら、湖の中を気持ちよさそうに泳いでいた。団長は湖の中には入らないで、湖畔に植樹してある柳の木の下にいて、団員たちが泳いでいる姿をじっと見ていた。溺れるカエルがいないかどうか監視しているのではないのかなと、ぼくは思った。カエルは泳ぎの名手だから溺れるはずはないと思っていたが、団員の中には前足や後ろ足がない奇形ガエルもいるので、万一の場合を考えて監視しているのではないかと、ぼくは思った。ぼくは団長のところにそっと近づいていった。
「こんにちは。監視ですか」
ぼくは団長に聞いた。団長は首を横に振った。
「おれたちの故郷にも、このような池があって、池の中にはハスの葉がたくさん生育しる。夏の暑い日には、このようにして楽しく泳いでいた。ところが今は池が汚染されて泳げなくなったので、昔のことを懐かしく思っていた」
団長がそう答えた。団長の顔が曇っているのが分かった。
「そうでしたか。でもここはまだ大丈夫です。楽しく泳ぐことができます」
ぼくはそう答えた。
「確かに、そのようだな。でもやはり、おれたちの故郷は田舎だから、町の生活は、どうしても水が合わない」
団長がぽつりとそう言った。
「そうですか。どのようなところが水が合わないのでしょうか」
ぼくは団長に聞き返した。
「町と田舎では人や車や建物の数が違うし、空も違っている」
団長がそう言った。
「空は同じだと思いますが……」
ぼくは異を唱えた。
「いや、空も違っている」
団長がそう言って、首を横に振った。
「どのように違っているのでしょうか」
ぼくは合点がいかなかったので、聞き返した。
「雨があがったあと、田舎では空にきれいな虹が見えることがある。でも町では高い建物に遮られて空がよく見えない。おれは虹を見るのが好きだから空が見えにくい町の生活には馴染めない」
団長がそう言った。
「虹だけではない。田舎では田んぼや畑のはるか先に地平線が見えるが、町では地平線は見えない。地平線の向こうから太陽が顔を出したり、地平線のかなたに夕日が沈んでいくのを見るのも好きだから、町の生活には馴染めない」
団長がぶつぶつと、そう言った。
「そうですか。だったら仕方がないですね」
ぼくは、寂しそうにそう答えた。
「今晩、テレビのニュースで、みなさんたちのことが取り上げられると思います。明日の朝刊にも、あなたたちのことが取り上げられると思います。たくさんの人たちが、これから環境問題に関心を持って、今、田舎で起きている環境汚染の問題を真剣に考えて、改善に向けて努力するようになるだろうと思います。田舎の環境が改善されてから、田舎に帰るようにされたらいかがでしょうか。一朝一夕には改善できないと思いますが、改善されるまではここに滞在して、ぼくたちに美しい音楽を聞かせていただけないでしょうか」
ぼくは、団長にそう言った。
ぼくの話を聞いたあと、団長は、団員たちと話し合いを始めた。しばらくしてから団長は話し合いの結果を、ぼくに伝えた。
「この町にはハエやカがたくさんいるので、衛生上よくない。ぼくたちの力で、ハエやカを駆除して、この町からハエやカを一掃することにした。昼間は町のあちこちへ出かけていってハエやカを駆除して、日が暮れるとこの公園に帰ってきて、一日の疲れを取るために、ひと泳ぎして、そのあと合唱することにした。ハエやカがこの町から一掃されたら、おれたちは田舎に帰ることにする」
団長がそう言った。それを聞いて、ぼくは少し複雑な気持ちになった。カエルたちがこの町の人たちのために貢献してくれたり、美しい合唱を聞かせてくれるのはうれしいが、カエルたちが町の中に害虫の駆除に行くのには、危険がともなうのではないかと思ったからだ。そのことを団長に話すと
「心配してくれるのはありがたい。でも、おれは町の人たちを信用しているから、おれたちを捕まえたり、車でひいたりしないと固く信じている」
と、団長が言った。それを聞いて、ぼくは気がかりながらも、うなずくよりほかなかった。もう一つ、ぼくが心配していることがあった。それは、この町はとても広いので、公園を出て、町のあちこちへ害虫の駆除に出かけていった後、迷わずに無事に帰ってくることができるかどうかということだった。そのことを団長に話すと、団長は、それほど気に留めない様子で
「おれたちは田舎にいた時も、朝早く、あちこちへ出かけていって、田んぼや畑にいる害虫を捕まえていたし、夕方になると、迷わずに同じ池に帰ってきていた」
と言った。
「でも、この町にはまだ来たばかりだから、道に不案内なのではないですか」
ぼくは団長に、そう言った。
「……」
団長は一瞬、答に詰まっていた。
「何かよい方法があるか」
団長が聞いた。
「すぐには思いつきませんが、少し考えさせてください。相談にのってくれる親友がいるので、これから相談に行ってきます。それまでは、この公園から出ないで、泳いだり、歌の練習をしながら、ぼくの帰りを待っていてください」
ぼくはそう答えた。
「分かった。そうすることにする」
団長が、うなずいた。
ぼくはそれからまもなく、老いらくさんを探しに行った。老いらくさんは知恵袋だから、何かいい方法を授けてくれるかもしれないと思ったからだ。老いらくさんは、住むところをよく変えるので、なかなか探しに行きにくいが、ぼくが探していることを知ったら、それを感じて、向こうからやってくることがよくある。今日もそうだった。湖畔にそってしばらく歩いていると、遠くに見える眼鏡橋の辺りから老いらくさんがやってくるのが見えた。
「やあ、笑い猫。元気か?」
老いらくさんが、手を振りながら、そう言った。老いらくさんが近くまでやってくると、ぼくは老いらくさんに、カエルたちが害虫の駆除に出かけようとしていることを話した。すると老いらくさんは感心したような声で
「立派なカエルたちだなあ」
と言った。ぼくはうなずいた。
「カエルたちの殊勝な心がけに、ぼくも感心しています。でも懸念していることがあります」
ぼくはそう言った。
「何だ、それは?」
老いらくさんが聞き返した。
「カエルたちが駆除に出かけていったあと、無事にここまで帰ってこられるかどうかということです」
ぼくは心配していることを話した。
「この町は大きいので、帰り道に迷ってしまうカエルがいるのではないかと思って気がかりなのか」
老いらくさんが、そう言った。ぼくはうなずいた。
「カエルたちはまだこの町に慣れていないので、どこにどんな通りがあるかや、ハエやカがたくさんいるのは、どこなのか、まだよく知らないと思います。やみくもに、あちこち出かけていったら、道に迷ってしまうだろうし、効率よく害虫退治をすることもできないと思います」
ぼくがそう言うと、老いらくさんが
「確かにそうかもしれないな」
と言った。老いらくさんは、それから、しばらく考えをめぐらしていた。
「こういうのは、どうだろうか?」
老いらくさんは、そう言って、考えを述べ始めた。
「カエルたちに地域を割り当てて、それぞれの地域で駆除に当たらせるのだ」
ぼくには老いらくさんが言っている意味がまだよく分からないでいた。
「もう少し具体的に話していただけませんか」
ぼくは老いらくさんに、そう言った。老いらくさんはうなずいてから冷静に話を始めた。
「この町を三つの地域に分けて、高音部、中音部、低音部のカエルたちをパートごとに、その地域に連れていって、その地域までの道筋を覚えさせるのだ。その地域のどの辺りにハエやカが多くいるかは、わしがよく知っているから案内できる」
老いらくさんがそう言った。それを聞いて、ぼくは老いらくさんの知恵に感心した。確かに、そのようにすれば、カエルたちはパートごとにまとまって行動できる。道に迷うことも少ないだろうし、効率よくハエやカを駆除できる。ぼくはそう思った。カエルたちは田舎にいる時も、パートごとにまとまって、田畑のあちこちへ行っていたのではないだろうか。ぼくはそう思った。
ぼくと老いらくさんは、それからまもなく翠湖公園から外に出て、カエルたちに仕事を分担させるために町の地域分けに行った。途中でぼくは老いらくさんに
「デパートの家電売り場へまず最初に連れていっていただけませんか」
と、言った。すると老いらくさんが、けげんそうな顔をして
「どうしてだ?」
と、聞き返してきた。
「テレビのニュース番組に、カエルたちが出ているかどうか見てみたいのです」
ぼくは老いらくさんに、そう言った。
「分かった。わしも見てみたい」
老いらくさんは、そう答えて、ぼくをデパートに連れていってくれた。老いらくさんは町のどこに何があるかよく知っているし、にぎやかなところが好きなので、デパートにもよく来ている。デパートの中は人が多いし、きれいな商品がたくさん陳列してあるので、とても楽しいところだと、老いらくさんはいつも話している。家電売り場がデパートの何階にあるか、老いらくさんはもちろん知っていた。テレビがどのあたりにあるかも知っていたので、家電売り場に着くと、老いらくさんは、すぐにぼくをテレビがたくさん並べられているコーナーへ連れていってくれた。
ぼくと老いらくさんがテレビの前に着いてからまもなく、ニュース番組が始まった。ぼくが思っていたとおり、この町の歩行者天国の中にある『リンゴ広場』に、突然、トノサマガエルの大群が現れて、合唱を始めたことや、合唱団の中に奇形ガエルがいることが、トップニュースとして報道されていた。老いらくさんは人の話の内容が分からないので、
「テレビの中でどんなことを言っているのか」
と、ぼくに聞いた。ぼくはしばらく話の内容に耳を傾けてから
「ニューキャスターも、インタビューを受けている人も、奇形ガエルに心を痛めていて、環境問題に早急に取り組む必要があると言っています。これはカエルたちにとって朗報です。カエルたちに早く知らせてあげなければなりません」
ぼくはそう言った。
「そうだな。これは何よりの福音だ」
老いらくさんは、そう言って、喜んでいた。
それからまもなく、ぼくと老いらくさんはデパートを出て、夜が更けるまで、町全体を歩き回って、三つの地域に分けて、そこへ行くまでのルートを目と足で確かめていた。
ぼくと老いらくさんが下調べを終えて翠湖公園に帰ってきた時は、もうすでに深夜になっていた。カエルたちは合唱の練習を終えて、湖畔でひと休みしていた。老いらくさんは、うちへ帰っていったので、ぼくは、ひとりで団長のそばへ行って、夕方のテレビのニュースの中でカエルたちのことが報道されていたことを伝えた。すると団長が
「どんなふうに報道されていたか」
と言って、聞き返してきた。
「これからもっと環境汚染の問題に真剣に取り組んでいかなければならないと、キャスターが言っていました。インタビューを受けていた人も、みんな好意的でした。カエルがかわいそうでたまらないと言って、涙を浮かべている人もいました。カエルたちが住みよい田舎の環境を取り戻してあげることは、我々に課せられた急務だと言って、意気込んでいる人もいました」
ぼくは、そう答えた。
「そうか。それはよかった。この町の人たちはみんな優しいなあ」
団長は、そう言ってから、ぼくが伝えた話の内容を団員たちに伝えていた。すると団員たちの間から、大きな歓声があがっていた。
「この町の人たちが、おれたちのことを、そんなによく思ってくれているのだったら、おれたちも、それに応えなければならない。この町を衛生的な町にするために力の限りを尽くして害虫を一掃して、人々に貢献する」
団長が熱い決意を語った。ぼくはそれを聞いて、思わず感涙がこみあげてきた。ぼくは団長に、先ほど町へ出かけて、町全体を三つの地域に分けて、そこへ行くためのルートを目と足で確かめてきたことを話した。
「そうか。おれたち合唱団は三つのバートに分かれているから、パートごとに、その地域に派遣して害虫の駆除に当たらせることにしよう」
団長がそう言った。
団長はそれからまもなく、まず高音部のカエルたちに集合を呼びかけて、隊列を組ませた。
「みんなよく聞け。これから、この笑い猫がお前たちを案内して、町の中に連れていく。その地域が、お前たちの明日からの持ち場だ。そこへ行くまでのルートを頭の中にしっかり覚えて帰ってくること。分かったか」
団長がそう言った。
「分かりました」
高音部のカエルたちは、異口同音に、そう答えていた。
それからまもなく、ぼくは高音部のカエルたちを先導しながら、公園を出ていった。安全を確保するために、明るい街灯の下を歩かせて、大きな声で歌わせながら、A地域へ連れていった。道順を覚えさせるために、周囲の状況を目で確かめさせながら、ゆっくりと歩かせた。そして再び翠湖公園に帰ってきた。
団長はそれを見て、次に中音部のカエルたちに集合を呼びかけて、隊列を組ませた。
「みんなよく聞け。これから、この笑い猫がお前たちを案内して、町の中に連れていく。その地域が、お前たちの明日からの持ち場だ。そこへ行くまでのルートを頭の中にしっかり覚えて帰ってくること。分かったか」
団長がそう言った。
「分かりました」
中音部のカエルたちは、異口同音に、そう答えていた。
それからまもなく、ぼくは中音部のカエルたちを先導しながら、公園を出ていった。安全を確保するために、明るい街灯の下を歩かせて、大きな声で歌わせながら、B地域へ連れていった。道順を覚えさせるために、周囲の状況を目で確かめさせながら、ゆっくりと歩かせた。そして再び、翠湖公園に帰ってきた。
団長はそれを見て、次に低音部のカエルたちに集合を呼びかけて、隊列を組ませた。
「みんなよく聞け。これから、この笑い猫がお前たちを案内して、町の中に連れていく。その地域が、お前たちの明日からの持ち場だ。そこへ行くまでのルートを頭の中にしっかり覚えて帰ってくること。分かったか」
団長がそう言った。
「分かりました」
低音部のカエルたちは、異口同音に、そう答えていた。
それからまもなく、ぼくは低音部のカエルたちを先導しながら、公園を出ていった。安全を確保するために、明るい街灯の下を歩かせて、大きな声で歌わせながら、C地域へ連れていった。道順を覚えさせるために、周囲の状況を目で確かめさせながら、ゆっくりと歩かせた。そして再び、翠湖公園に帰ってきた。
すべてのカエルたちが町の下見を終えて、翠湖公園に帰ってきた時には、もうすでに夜が白々と明けようとしていた。一晩中おこなわれたカエルたちの下見の様子に気がついた人たちは、ほとんどいなかった。空に輝いている星だけが、静かに見守っていた。
翠湖公園はカエル合唱団の仮の住まいとなった。いずれはまた田舎に帰っていくことになるだろうが、それまではゆっくりと、この公園で楽しく過ごしてもらいたいと、ぼくは思っていた。
昼間、シャワーのような通り雨が、ざーっと降った。雨がやんだあと、少し涼しくなったので、ぼくはうちから外に出て、翠湖の湖畔に沿って散歩を始めた。翠湖の中には湖面を覆いつくすようにハスの葉が広く生育していて、一雨降るごとに、ハスの葉が大きく成長していた。ハスの葉の下にカエル合唱団のメンバーがいるのが見えた。団員たちは、ゆったりと手足を動かしながら、湖の中を気持ちよさそうに泳いでいた。団長は湖の中には入らないで、湖畔に植樹してある柳の木の下にいて、団員たちが泳いでいる姿をじっと見ていた。溺れるカエルがいないかどうか監視しているのではないのかなと、ぼくは思った。カエルは泳ぎの名手だから溺れるはずはないと思っていたが、団員の中には前足や後ろ足がない奇形ガエルもいるので、万一の場合を考えて監視しているのではないかと、ぼくは思った。ぼくは団長のところにそっと近づいていった。
「こんにちは。監視ですか」
ぼくは団長に聞いた。団長は首を横に振った。
「おれたちの故郷にも、このような池があって、池の中にはハスの葉がたくさん生育しる。夏の暑い日には、このようにして楽しく泳いでいた。ところが今は池が汚染されて泳げなくなったので、昔のことを懐かしく思っていた」
団長がそう答えた。団長の顔が曇っているのが分かった。
「そうでしたか。でもここはまだ大丈夫です。楽しく泳ぐことができます」
ぼくはそう答えた。
「確かに、そのようだな。でもやはり、おれたちの故郷は田舎だから、町の生活は、どうしても水が合わない」
団長がぽつりとそう言った。
「そうですか。どのようなところが水が合わないのでしょうか」
ぼくは団長に聞き返した。
「町と田舎では人や車や建物の数が違うし、空も違っている」
団長がそう言った。
「空は同じだと思いますが……」
ぼくは異を唱えた。
「いや、空も違っている」
団長がそう言って、首を横に振った。
「どのように違っているのでしょうか」
ぼくは合点がいかなかったので、聞き返した。
「雨があがったあと、田舎では空にきれいな虹が見えることがある。でも町では高い建物に遮られて空がよく見えない。おれは虹を見るのが好きだから空が見えにくい町の生活には馴染めない」
団長がそう言った。
「虹だけではない。田舎では田んぼや畑のはるか先に地平線が見えるが、町では地平線は見えない。地平線の向こうから太陽が顔を出したり、地平線のかなたに夕日が沈んでいくのを見るのも好きだから、町の生活には馴染めない」
団長がぶつぶつと、そう言った。
「そうですか。だったら仕方がないですね」
ぼくは、寂しそうにそう答えた。
「今晩、テレビのニュースで、みなさんたちのことが取り上げられると思います。明日の朝刊にも、あなたたちのことが取り上げられると思います。たくさんの人たちが、これから環境問題に関心を持って、今、田舎で起きている環境汚染の問題を真剣に考えて、改善に向けて努力するようになるだろうと思います。田舎の環境が改善されてから、田舎に帰るようにされたらいかがでしょうか。一朝一夕には改善できないと思いますが、改善されるまではここに滞在して、ぼくたちに美しい音楽を聞かせていただけないでしょうか」
ぼくは、団長にそう言った。
ぼくの話を聞いたあと、団長は、団員たちと話し合いを始めた。しばらくしてから団長は話し合いの結果を、ぼくに伝えた。
「この町にはハエやカがたくさんいるので、衛生上よくない。ぼくたちの力で、ハエやカを駆除して、この町からハエやカを一掃することにした。昼間は町のあちこちへ出かけていってハエやカを駆除して、日が暮れるとこの公園に帰ってきて、一日の疲れを取るために、ひと泳ぎして、そのあと合唱することにした。ハエやカがこの町から一掃されたら、おれたちは田舎に帰ることにする」
団長がそう言った。それを聞いて、ぼくは少し複雑な気持ちになった。カエルたちがこの町の人たちのために貢献してくれたり、美しい合唱を聞かせてくれるのはうれしいが、カエルたちが町の中に害虫の駆除に行くのには、危険がともなうのではないかと思ったからだ。そのことを団長に話すと
「心配してくれるのはありがたい。でも、おれは町の人たちを信用しているから、おれたちを捕まえたり、車でひいたりしないと固く信じている」
と、団長が言った。それを聞いて、ぼくは気がかりながらも、うなずくよりほかなかった。もう一つ、ぼくが心配していることがあった。それは、この町はとても広いので、公園を出て、町のあちこちへ害虫の駆除に出かけていった後、迷わずに無事に帰ってくることができるかどうかということだった。そのことを団長に話すと、団長は、それほど気に留めない様子で
「おれたちは田舎にいた時も、朝早く、あちこちへ出かけていって、田んぼや畑にいる害虫を捕まえていたし、夕方になると、迷わずに同じ池に帰ってきていた」
と言った。
「でも、この町にはまだ来たばかりだから、道に不案内なのではないですか」
ぼくは団長に、そう言った。
「……」
団長は一瞬、答に詰まっていた。
「何かよい方法があるか」
団長が聞いた。
「すぐには思いつきませんが、少し考えさせてください。相談にのってくれる親友がいるので、これから相談に行ってきます。それまでは、この公園から出ないで、泳いだり、歌の練習をしながら、ぼくの帰りを待っていてください」
ぼくはそう答えた。
「分かった。そうすることにする」
団長が、うなずいた。
ぼくはそれからまもなく、老いらくさんを探しに行った。老いらくさんは知恵袋だから、何かいい方法を授けてくれるかもしれないと思ったからだ。老いらくさんは、住むところをよく変えるので、なかなか探しに行きにくいが、ぼくが探していることを知ったら、それを感じて、向こうからやってくることがよくある。今日もそうだった。湖畔にそってしばらく歩いていると、遠くに見える眼鏡橋の辺りから老いらくさんがやってくるのが見えた。
「やあ、笑い猫。元気か?」
老いらくさんが、手を振りながら、そう言った。老いらくさんが近くまでやってくると、ぼくは老いらくさんに、カエルたちが害虫の駆除に出かけようとしていることを話した。すると老いらくさんは感心したような声で
「立派なカエルたちだなあ」
と言った。ぼくはうなずいた。
「カエルたちの殊勝な心がけに、ぼくも感心しています。でも懸念していることがあります」
ぼくはそう言った。
「何だ、それは?」
老いらくさんが聞き返した。
「カエルたちが駆除に出かけていったあと、無事にここまで帰ってこられるかどうかということです」
ぼくは心配していることを話した。
「この町は大きいので、帰り道に迷ってしまうカエルがいるのではないかと思って気がかりなのか」
老いらくさんが、そう言った。ぼくはうなずいた。
「カエルたちはまだこの町に慣れていないので、どこにどんな通りがあるかや、ハエやカがたくさんいるのは、どこなのか、まだよく知らないと思います。やみくもに、あちこち出かけていったら、道に迷ってしまうだろうし、効率よく害虫退治をすることもできないと思います」
ぼくがそう言うと、老いらくさんが
「確かにそうかもしれないな」
と言った。老いらくさんは、それから、しばらく考えをめぐらしていた。
「こういうのは、どうだろうか?」
老いらくさんは、そう言って、考えを述べ始めた。
「カエルたちに地域を割り当てて、それぞれの地域で駆除に当たらせるのだ」
ぼくには老いらくさんが言っている意味がまだよく分からないでいた。
「もう少し具体的に話していただけませんか」
ぼくは老いらくさんに、そう言った。老いらくさんはうなずいてから冷静に話を始めた。
「この町を三つの地域に分けて、高音部、中音部、低音部のカエルたちをパートごとに、その地域に連れていって、その地域までの道筋を覚えさせるのだ。その地域のどの辺りにハエやカが多くいるかは、わしがよく知っているから案内できる」
老いらくさんがそう言った。それを聞いて、ぼくは老いらくさんの知恵に感心した。確かに、そのようにすれば、カエルたちはパートごとにまとまって行動できる。道に迷うことも少ないだろうし、効率よくハエやカを駆除できる。ぼくはそう思った。カエルたちは田舎にいる時も、パートごとにまとまって、田畑のあちこちへ行っていたのではないだろうか。ぼくはそう思った。
ぼくと老いらくさんは、それからまもなく翠湖公園から外に出て、カエルたちに仕事を分担させるために町の地域分けに行った。途中でぼくは老いらくさんに
「デパートの家電売り場へまず最初に連れていっていただけませんか」
と、言った。すると老いらくさんが、けげんそうな顔をして
「どうしてだ?」
と、聞き返してきた。
「テレビのニュース番組に、カエルたちが出ているかどうか見てみたいのです」
ぼくは老いらくさんに、そう言った。
「分かった。わしも見てみたい」
老いらくさんは、そう答えて、ぼくをデパートに連れていってくれた。老いらくさんは町のどこに何があるかよく知っているし、にぎやかなところが好きなので、デパートにもよく来ている。デパートの中は人が多いし、きれいな商品がたくさん陳列してあるので、とても楽しいところだと、老いらくさんはいつも話している。家電売り場がデパートの何階にあるか、老いらくさんはもちろん知っていた。テレビがどのあたりにあるかも知っていたので、家電売り場に着くと、老いらくさんは、すぐにぼくをテレビがたくさん並べられているコーナーへ連れていってくれた。
ぼくと老いらくさんがテレビの前に着いてからまもなく、ニュース番組が始まった。ぼくが思っていたとおり、この町の歩行者天国の中にある『リンゴ広場』に、突然、トノサマガエルの大群が現れて、合唱を始めたことや、合唱団の中に奇形ガエルがいることが、トップニュースとして報道されていた。老いらくさんは人の話の内容が分からないので、
「テレビの中でどんなことを言っているのか」
と、ぼくに聞いた。ぼくはしばらく話の内容に耳を傾けてから
「ニューキャスターも、インタビューを受けている人も、奇形ガエルに心を痛めていて、環境問題に早急に取り組む必要があると言っています。これはカエルたちにとって朗報です。カエルたちに早く知らせてあげなければなりません」
ぼくはそう言った。
「そうだな。これは何よりの福音だ」
老いらくさんは、そう言って、喜んでいた。
それからまもなく、ぼくと老いらくさんはデパートを出て、夜が更けるまで、町全体を歩き回って、三つの地域に分けて、そこへ行くまでのルートを目と足で確かめていた。
ぼくと老いらくさんが下調べを終えて翠湖公園に帰ってきた時は、もうすでに深夜になっていた。カエルたちは合唱の練習を終えて、湖畔でひと休みしていた。老いらくさんは、うちへ帰っていったので、ぼくは、ひとりで団長のそばへ行って、夕方のテレビのニュースの中でカエルたちのことが報道されていたことを伝えた。すると団長が
「どんなふうに報道されていたか」
と言って、聞き返してきた。
「これからもっと環境汚染の問題に真剣に取り組んでいかなければならないと、キャスターが言っていました。インタビューを受けていた人も、みんな好意的でした。カエルがかわいそうでたまらないと言って、涙を浮かべている人もいました。カエルたちが住みよい田舎の環境を取り戻してあげることは、我々に課せられた急務だと言って、意気込んでいる人もいました」
ぼくは、そう答えた。
「そうか。それはよかった。この町の人たちはみんな優しいなあ」
団長は、そう言ってから、ぼくが伝えた話の内容を団員たちに伝えていた。すると団員たちの間から、大きな歓声があがっていた。
「この町の人たちが、おれたちのことを、そんなによく思ってくれているのだったら、おれたちも、それに応えなければならない。この町を衛生的な町にするために力の限りを尽くして害虫を一掃して、人々に貢献する」
団長が熱い決意を語った。ぼくはそれを聞いて、思わず感涙がこみあげてきた。ぼくは団長に、先ほど町へ出かけて、町全体を三つの地域に分けて、そこへ行くためのルートを目と足で確かめてきたことを話した。
「そうか。おれたち合唱団は三つのバートに分かれているから、パートごとに、その地域に派遣して害虫の駆除に当たらせることにしよう」
団長がそう言った。
団長はそれからまもなく、まず高音部のカエルたちに集合を呼びかけて、隊列を組ませた。
「みんなよく聞け。これから、この笑い猫がお前たちを案内して、町の中に連れていく。その地域が、お前たちの明日からの持ち場だ。そこへ行くまでのルートを頭の中にしっかり覚えて帰ってくること。分かったか」
団長がそう言った。
「分かりました」
高音部のカエルたちは、異口同音に、そう答えていた。
それからまもなく、ぼくは高音部のカエルたちを先導しながら、公園を出ていった。安全を確保するために、明るい街灯の下を歩かせて、大きな声で歌わせながら、A地域へ連れていった。道順を覚えさせるために、周囲の状況を目で確かめさせながら、ゆっくりと歩かせた。そして再び翠湖公園に帰ってきた。
団長はそれを見て、次に中音部のカエルたちに集合を呼びかけて、隊列を組ませた。
「みんなよく聞け。これから、この笑い猫がお前たちを案内して、町の中に連れていく。その地域が、お前たちの明日からの持ち場だ。そこへ行くまでのルートを頭の中にしっかり覚えて帰ってくること。分かったか」
団長がそう言った。
「分かりました」
中音部のカエルたちは、異口同音に、そう答えていた。
それからまもなく、ぼくは中音部のカエルたちを先導しながら、公園を出ていった。安全を確保するために、明るい街灯の下を歩かせて、大きな声で歌わせながら、B地域へ連れていった。道順を覚えさせるために、周囲の状況を目で確かめさせながら、ゆっくりと歩かせた。そして再び、翠湖公園に帰ってきた。
団長はそれを見て、次に低音部のカエルたちに集合を呼びかけて、隊列を組ませた。
「みんなよく聞け。これから、この笑い猫がお前たちを案内して、町の中に連れていく。その地域が、お前たちの明日からの持ち場だ。そこへ行くまでのルートを頭の中にしっかり覚えて帰ってくること。分かったか」
団長がそう言った。
「分かりました」
低音部のカエルたちは、異口同音に、そう答えていた。
それからまもなく、ぼくは低音部のカエルたちを先導しながら、公園を出ていった。安全を確保するために、明るい街灯の下を歩かせて、大きな声で歌わせながら、C地域へ連れていった。道順を覚えさせるために、周囲の状況を目で確かめさせながら、ゆっくりと歩かせた。そして再び、翠湖公園に帰ってきた。
すべてのカエルたちが町の下見を終えて、翠湖公園に帰ってきた時には、もうすでに夜が白々と明けようとしていた。一晩中おこなわれたカエルたちの下見の様子に気がついた人たちは、ほとんどいなかった。空に輝いている星だけが、静かに見守っていた。

