天気……晩夏から初秋へと季節が移り変わる今の時季、夏の暑さで疲れ気味だった植物たちが生気を取り戻して、花の色に深みが増し、錦のように色とりどりと咲き誇っている。日が傾くと西の空が茜色に染まり、赤い色をした竜や鳳凰が、夕風に吹かれながら雲の中を出たり入ったりしながら、ふわふわと飛んでいるように見える。
妻猫が西山の山頂から採ってきてくれた血竜草の効能は思っていた以上だった。傷口に一日に三回すり込んでいたが、日ごとに痛みが薄れていったので、ぼくの気持ちはだんだん明るくなっていった。初めのうちは立ち上がることができなかったので、移動する時には、スケートボードに乗って、妻猫に押してもらっていた。しかし薬草の効能がだんだん現れてきて、ある日ついに、ぼくは、立ち上がって歩けるようになった。食欲も戻ってきて、以前とほぼ同じくらいに食べたり飲んだりすることができるようになった。天気のよい日には、妻猫に付き添ってもらいながら、翠湖の周りを散策することができるまでに回復した。
「お父さん、よく頑張ったわね」
散策しながら、妻猫がそう言った。
「ありがとう。これもひとえに、お母さんが血竜草を採りに行ってくれたおかげだよ。
本当にありがとう」
ぼくは妻猫に、そう答えて感謝した。
それからさらに数日たって、ぼくは以前と同じように、ひとりで散策に行けるまでに体の状態が回復した。ぼくはうれしくてたまらなかったので、天気のよい日には、ひとりで湖畔に沿って、ぶらぶらと歩いていた。そんなある日、向こうから、老いらくさんがやってきた。
「やあ、笑い猫、元気になったようだね。よかった、よかった」
老いらくさんが、ほっとしたような顔をしながら、そう言った。
「ありがとうございます。老いらくさんが持っていたスケートボードのおかげで、ぼくはうちまで帰ることができました」
ぼくはそう言って、老いらくさんに感謝した。
「もうお前は自分で歩けるようになったから、わしのスケートボードは必要ないだろう。わしに返してくれないか」
老いらくさんが、そう言った。
「分かりました。これからうちへ帰って、押してきます」
ぼくはそう答えた。それからまもなく、ぼくはうちへ帰って、スケートボードを押しながら、老いらくさんのところへ戻ってきた。スケートボードを見ると、老いらくさんは、とてもうれしそうな顔をしながら
「わしにとって、このスケートボードはお前の次に大切な友だちなのだ。近くにあると、ほっとするし、ないととても寂しい」
と言った。
「そうですね。老いらくさんは、このスケートボードを、いろいろなことに使っていますからね」
ぼくはそう答えた。
「そうだよ。ものを運ぶ時の台車として使ったり、ご飯を食べる時のテーブルとして使っているから、ない時はとても困っていた」
老いらくさんがそう言った。
「そうですか。ごめんなさい」
ぼくは老いらくさんにぺこりと頭を下げて謝った。
「いいよ。いいよ。わしの大切な宝物がお前の役に立って、うれしいよ。今度また、お前に何かあった時は、これにお前を乗せて押していくよ」
老いらくさんがそう言った。ぼくはそれを聞いて、苦笑いした。
「できたらもうこれに乗りたくないですね」
ぼくはそう答えた。
「そうだろうなあ。お前の気持ちがよく分かるよ」
老いらくさんが、そう言った。
老いらくさんにスケートボードを返してから、ぼくは老いらくさんと別れて、うちへ帰っていった。そのあとずっと、うちの中でツヨシ―のことを考えていた。
翌朝早く目が覚めるとすぐに、ぼくはうちの外に出た。東の空が朝焼けに染まっていて、とてもきれいだった。しばらく朝焼けをじっと見ていたが、気持ちが弾んで、抑えきれなくなったので、うちの中に戻って妻猫に
「お母さん、これからスイレン跳びに行きませんか」
と誘った。
「大丈夫ですか。まだ全快したわけではないのでしょう」
妻猫が気遣ってくれた。
「大丈夫です。もうすっかりよくなりましたから」
ぼくは、そう答えた。
「そうですか。だったらお父さんの全快を祝って、スイレン跳びをして遊びましょう」
妻猫がそう言った。
それからまもなく、ぼくは妻猫といっしょにうちを出て湖畔に行った。
スイレン跳びというのは、スイレンの上をぴょんぴょん跳びまわる遊びのことだ。天気がよい時には、妻猫といっしょに、いつもこれをして遊んでいる。楽しいし、運動にもなるので、ぼくも妻猫も大好きな遊びだ。ぼくも妻猫も泳げるので、湖の中に落ちてもすぐにスイレンの上に戻ることができる。交互に跳んで先に落ちたほうが負け。これまで何度もスイレン跳びをしているが、ぼくが負けることのほうが多かった。でも今日は絶対に負けたくなかった。先に疲れた方が負けることが多いので、元気になったことを見せるためだ。
ぼくと妻猫が湖畔に着くと、カエルたちがたくさん集まってきた。団長がぼくに声をかけた。
「お前が湖の中に蹴り込まれて意識を失ったので、おれたちは、みんなとても心配していた。スイレンの上にいるお前に声をかけたが反応がなかったので、もうダメかと思っていた」
団長が目を潤ませながらそう言った。
「おかげさまで、いくつもの幸運が重なって、かろうじて九死に一生を得ることができました」
ぼくは団長に、そう答えた。
「よかった、よかった」
団長はそう言って、胸のつかえがとれたような顔をしていた。
ぼくはそのあと団長に妻猫のことを紹介した。団長は妻猫を見ながら
「お前にふさわしくて、とても上品できれいな奥さんだね」
と、ぼくに言った。
「ありがとうございます」
ぼくは団長に、そう答えた。団長が言ったことを、ぼくは妻猫に伝えた。すると妻猫がうれしそうな顔をしていた。団長はそのあとオンプーを妻猫に紹介した。妻猫はオンプーを見ながら
「団長にふさわしくて、声がとてもきれいな奥さんですね」
と言った。妻猫が言ったことを、ぼくはオンプーに伝えた。するとオンプーが明るい顔をしながら
「ありがとうございます。ご主人のおかげで、わたしこそ、九死に一生を得ることができました。このご恩は一生忘れません」
と言った。オンプーが言ったことを、ぼくは妻猫に伝えた。すると妻猫が満更でもなさそうな顔をしていた。
ぼくと妻猫はそれからまもなく、スイレン跳びを始めた。カエルたちは楽しそうな顔をしながら、ぼくと妻猫のゲームを見ていた。ぼくも妻猫もお互いに負けてはならないとばかりに競い合って、スイレンの上をぴょんぴょん跳びまわっていた。なかなか勝負がつかなかった。妻猫はしなやかな動きでツバメのように、すいすいと跳んでいた。ぼくはスリリングな身のこなしで、スイレンの上を次から次に飛び移っていた。カエルたちに見つめられるなか、ぼくも妻猫も頑張ったので、十分ぐらい跳び続けても、どちらも一回も跳び損ねて湖の中に落ちることはなかった。カエルたちの万雷の拍手喝采を浴びながら、ぼくも妻猫も夢中になって跳び続けていた。カエルたちの中には、ぼくたちの真似をして、ペアを組んでスイレン跳びをしたり、スイレンの上でワルツの曲を歌って気分を盛り上げてくれるカエルもいた。団長もオンプーといっしょに、団員たちが歌うワルツの曲に乗って、踊るように軽快にスイレン跳びをしていた。ぼくと妻猫やカエルたちがスイレンの上で跳んだり、はねたりしているのを、たくさんの人たちが見ていた。カエルたちが跳んだり、はねたりしているのを見ても、何とも思っていないようだったが、ぼくと妻猫がスイレンの上で跳びまわっているのを見て、みんな不思議そうな顔をしながら見ていた。ぼくも妻猫も人の視線を少しも気にとめないで楽しく跳びまわっていた。
スイレン跳びを始めてから十五分ぐらいがたったころ、妻猫の息が少しあがってきて、跳び移るスピードが落ちてきた。
「負けたわ」
妻猫がそう言った。
「まだ水の中に落ちていないから勝負はついていないよ」
ぼくはそう答えた。
「もう、わたしは、いっぱいいっぱいだから、これ以上跳べそうにないわ。お父さんはあんなに重傷を負ったにもかかわらず、まだ余力があって、すごいわ」
妻猫がそう言った。
それからまもなく、ぼくと妻猫はスイレン跳びをやめて、湖畔にあがった。それを見て、カエルたちもスイレン跳びや合唱やダンスをやめて、湖の中に次から次に飛び込んで姿が見えなくなった。ぼくはそれを見て、少しけげんに思った。いつもだったら、カエルたちはこれから眼鏡橋の上に集まって、合唱のパートごとに分かれて、ハエやカの駆除に出かけていく時間だったからだ。ぼくは団長に
「今日はどうして駆除に行かないのですか」
と聞いた。すると団長が
「この町には、ハエやカは、もういなくなったから、駆除に出かけていく必要がなくなったからだ」
と答えた。
「そうですか。ご苦労様でした。みなさんのおかげで、この町はとても衛生的な町になりました。心よりお礼申し上げます」
ぼくは丁重にお辞儀をしながら、団長にそう答えた。団長は、にっこりと、うなずいた。
「この町に来て、いろいろな出来事があった。危険な目にも遭ったが、忘れられない思い出もたくさんあった。お前と出会ったことも、忘れられない思い出の一つだ」
団長がそう言った。
「ぼくも団長と出会えて、とてもうれしく思っています。よかったら、これからもずっと、この町にいてくれませんか」
ぼくは団長に、そう言った。
「お前の気持ちはありがたいが、おれはこれから団員たちを引き連れて、田舎へ帰ることにする。田舎ではこれから農作物の収穫時期を迎えるので、おれたちの力で農作物を害虫から守ってあげなければならないから」
団長がそう言った。
「そうですか。それは残念ですね」
ぼくは名残惜しそうに、そう答えた。
「ハエやカの駆除ができたことで、おれも団員たちも、とてもうれしく思っている。ただ、気がかりなことが一つある。サカダチーのことだ。サカダチーはどうしてまだ戻ってこないのだ」
団長が心配そうな声で、そう聞いた。
「サカダチ―、いえツヨシ―は今、馬小跳という子どもの家にいて、傷の手当てをしてもらっています。傷が治ったら、馬小跳が、ここに連れてくると思います」
ぼくはそう答えた。すると団長が
「お前はどうして、その馬小跳という子どもをそんなに信用しているのだ」
と聞いた。
「馬小跳は動物が大好きな子どもだからです」
ぼくはそう答えた。
「どうしてそう言えるのだ」
団長はまだ半信半疑の顔をしていた。
「馬小跳はツヨシ―を助けるために仲間といっしょに危険をおかしました。動物が大好きだから、勇気を奮って困難なことをしました」
ぼくはそう答えてから、馬小跳たちが何をしたかを団長に話した。ぼくの話を聞いて団長が
「分かった。そうだったのか。サカダチ―を助けるために危険なことをしてくれたのか」
と言って、うなずいていた。
『噂をすれば影がさす』と言うが、ぼくが団長と話をしている時に、公園の入口付近にある眼鏡橋の上に見覚えのある人影が見えた。馬小跳が、唐飛や張達や毛超といっしょに横に並びながら、公園の中に入ってきているのが見えた。
「団長、馬小跳たちが、こちらへ近づいてきています。もしかしたらツヨシ―を連れてきているかもしれません。ぼくはこれから出迎えに行きます。ここでしばらく待っていてください」
ぼくは団長にそう言った。
「分かった。そうする」
団長がそう答えた。
ぼくはそれからまもなく、馬小跳たちのところまで走っていった。ぼくの姿に気がついて馬小跳がびっくりしていた。
「やあ、笑い猫、久しぶりだなあ」
馬小跳がそう言った。ぼくが危ない目に何度も遭って、危うく命を落としかけたことを馬小跳は何も知らないでいたから、本当は話してあげたかった。でもぼくには人の言葉が話せないので、うなずくしかなかった。
「あの日、お前が、おれたちを遊園地へ連れていってくれたおかげで、ツヨシ―を助けることができた。ありがとう」
馬小跳がそう言って、ぼくの頭をそっとなでてくれた。
「お前があいつらに、かみついて追っ手をさえぎってくれたおかげで、おれはツヨシ―を入れた袋を持ったまま、逃げうせることができた、これはおれからのお礼だ」
張達は、そう言って、キャットフードをぼくに見せた。
「おれたちはこれから、お前のうちへ食糧を持っていくところだ」
毛超はそう言った。
「おれはお前に干しビーフを持ってきたぞ。お前が一番好きな食べ物だからな」
唐飛はそう言って、ポケットの中から干しビーフが入った袋を取り出した。それを見て毛超がけげんそうな顔をして
「笑い猫が一番好きな食べ物はミニトマトだぞ。お前は知らなかったのか」
と言って、唐飛を非難した。唐飛と毛超はいずれも自分の正しさを主張して譲らなかったので、しばらく言い争っていた。
「お前たち、けんかはやめろよ。みっともない」
張達がそう言って唐飛と毛超の間に入って、仲裁していた。
それからまもなく、馬小跳たちは、ぼくのあとについてきた。ぼくは馬小跳たちを、先ほど団長と話をしていた場所へ連れていった。団長がぼくの姿に気がついて
「やあ、戻ってきたか」
と声をかけた。ぼくはうなずいた。
「青いシャツを着ている男の子が馬小跳で、あとはみんな馬小跳の友だちです」
ぼくは団長に、そう言った。団長は、馬小跳たちを、一人一人、見まわしながら
「この子たちが、サカダチ―を助けてくれたのか」
と聞いた。
「そうです。危険をおかして助けてくれました」
ぼくはそう答えた。
馬小跳はそれからまもなく手に持っていた箱のふたを開けた。すると箱の中からツヨシ―が、元気よくぴょんと飛び出してきて、前足で逆立ちをしながら歩き始めた。それを見て、団長がすぐにツヨシ―に近づいてきて、久しぶりの再会を喜び合っていた。やけどを負って痛々しく見えたツヨシ―の足の傷は、もうすっかり完治しているように見えた。
(よかった、よかった)
ぼくはそう思った。団長とツヨシ―は、それからまもなく、異口同音に
「ありがとう」
と言って、たくさんの仲間たちが待っている翠湖の中に飛び込んでいった。ツヨシ―が無事に帰ってきたことを知って、ツヨシ―の周りにカエルたちがたくさん集まってきて喜び合っているのが見えた。団長の奥さんであるオンプーはスイレンの上に乗って、ソロで喜びの歌を歌っていた。ツヨシ―は合唱団のアイドルなので、みんなからとても愛されているのだなあと、ぼくは思った。
馬小跳と仲間たちは、ツヨシ―を助けて、団員たちのもとへ無事に帰してあげることができたので、とても満たされたような顔をしていた。馬小跳たちは、そのあとしばらく翠湖の周りを散策してから、ぼくと妻猫にあげる食糧を、うちまで持ってきてくれた。馬小跳たちの優しさに感謝しながら、妻猫といっしょに、キャットフードやミニトマトや干しビーフを食べたりしていた。馬小跳たちが帰っていったあと、ぼくは食後の運動をするために再び、うちの外に出て、湖畔にそって散歩を始めた。するとその時、たまたますれ違った若い女性二人の会話が耳に入った。
「ここにいるカエルのことがテレビのニュースに出ていたわ」
「そうだね。この町が環境衛生都市に選ばれたのは、ここにいるカエルのおかげだとアナウンサーが話していたわ」
「環境衛生都市に選ばれたのは、とても名誉なことだわ」
「そうだね。カエルたちがこの町に来てから、ハエやカがだんだん少なくなっていたから、そのことが評価されたのかもしれないわね」
若い女性二人は、そのように話していた。ぼくはそれを聞いて、とてもうれしくなった。
(今日は何と喜ばしい日だろう)
ぼくはそう思った。ぼくの体はすっかり回復してスイレン跳びで妻猫に負けなかったし、ツヨシ―も元気になって戻ってきた。この町が環境衛生都市に選ばれたという、おめでたいニュースも思いがけず小耳にはさんだ。
浮き浮きしながら、湖畔を歩いていると、向こうから老いらくさんがやってきた。
「やあ、笑い猫、何かいいことでもあったのかい」
ぼくの顔がにこにこしているのを見て、老いらくさんが聞いた。ぼくは今日あった、うれしい出来事を老いらくさんに話した。
「そうか。それは本当におめでたいことだな。わしもうれしいよ。この町が栄えある環境衛生都市に選ばれた功労者はカエルだから、カエルにはこれからもずっとこの町にいて、ますます環境衛生のために尽くしてもらいたいと願っている。わしの気持ちをお前から団長に、伝えてもらえないか」
老いらくさんがそう言った。
「ぼくもそう願っているのですが、団長はもうすぐ田舎へ帰ると言っています。この町にいるハエやカはすべて駆除できたし、田舎ではこれから農作物の収穫時期を迎えるので、自分たちの力で農作物を守るために田舎に帰らなければならないと言っています」
ぼくはそう答えた。
「そうか、それは残念だな」
老いらくさんが寂しそうに、ぽつりと、そう言った。
日が暮れて、空に明るい月が、こうこうと輝き始めたころ、翠湖の上に浮かんでいるスイレンの上に、パートごとに分かれたカエル合唱団の団員たちがたくさん載っていた。翠湖の湖畔にある『翠湖公園』と書かれた石碑が指揮台となっていて、指揮台の上には団長が手を広げて立っていた。団長は団員たちを見回しながら、それぞれのパートの呼吸を見計らっていた。すべてのパートで歌い始める準備が首尾よく整ったのを確かめてから、団長は手を動かし始めた。団長の手の動きを見ながら、団員たちはパートごとに声をそろえて三部合唱で歌い始めた。
「ケロ、ケロ、ケロ……」
高音部のカエルたちは、ソプラノやテノールの美しい声で、高らかに歌っていた。その声は遠くまで軽やかに響きわたり、歌声に引き寄せられるように、たくさんの人たちが夜更けの翠湖公園にやってきて静かに聞き入っていた。
「クワッ、クワッ、クワッ……」
中音部のカエルたちは、メゾソプラノやバリトンのまろやかな声で、滑らかに歌っていた。節回しがとてもきれいで、感動的な歌声が、ふわふわと宙に流れていていたので、多くの人たちが興味をそそられて翠湖公園にやってきて酔いしれていた。
低音部のカエルたちは、アルトやバスの厳かな声で、重々しく、どっしりと歌っていた。その声は、おなかにずっしりと響くような力強さにあふれていて、たくましい歌声に誘われて、三々五々と連れ立って聞きにやってくる人たちがいて、聞く人に勇気と元気を与えていた。
団長の卓越した指揮ぶりも多くの人たちに深い感動を与えていた。曲調に合わせて、腕の振り方を上下左右に巧みに動かしながら、団員たちをうまくリードしていた。
団員たちのハーモニーの取れた三部合唱は夜遅くまで響きわたっていた。これが団員たちがこの町で歌う最後の合唱となった。
妻猫が西山の山頂から採ってきてくれた血竜草の効能は思っていた以上だった。傷口に一日に三回すり込んでいたが、日ごとに痛みが薄れていったので、ぼくの気持ちはだんだん明るくなっていった。初めのうちは立ち上がることができなかったので、移動する時には、スケートボードに乗って、妻猫に押してもらっていた。しかし薬草の効能がだんだん現れてきて、ある日ついに、ぼくは、立ち上がって歩けるようになった。食欲も戻ってきて、以前とほぼ同じくらいに食べたり飲んだりすることができるようになった。天気のよい日には、妻猫に付き添ってもらいながら、翠湖の周りを散策することができるまでに回復した。
「お父さん、よく頑張ったわね」
散策しながら、妻猫がそう言った。
「ありがとう。これもひとえに、お母さんが血竜草を採りに行ってくれたおかげだよ。
本当にありがとう」
ぼくは妻猫に、そう答えて感謝した。
それからさらに数日たって、ぼくは以前と同じように、ひとりで散策に行けるまでに体の状態が回復した。ぼくはうれしくてたまらなかったので、天気のよい日には、ひとりで湖畔に沿って、ぶらぶらと歩いていた。そんなある日、向こうから、老いらくさんがやってきた。
「やあ、笑い猫、元気になったようだね。よかった、よかった」
老いらくさんが、ほっとしたような顔をしながら、そう言った。
「ありがとうございます。老いらくさんが持っていたスケートボードのおかげで、ぼくはうちまで帰ることができました」
ぼくはそう言って、老いらくさんに感謝した。
「もうお前は自分で歩けるようになったから、わしのスケートボードは必要ないだろう。わしに返してくれないか」
老いらくさんが、そう言った。
「分かりました。これからうちへ帰って、押してきます」
ぼくはそう答えた。それからまもなく、ぼくはうちへ帰って、スケートボードを押しながら、老いらくさんのところへ戻ってきた。スケートボードを見ると、老いらくさんは、とてもうれしそうな顔をしながら
「わしにとって、このスケートボードはお前の次に大切な友だちなのだ。近くにあると、ほっとするし、ないととても寂しい」
と言った。
「そうですね。老いらくさんは、このスケートボードを、いろいろなことに使っていますからね」
ぼくはそう答えた。
「そうだよ。ものを運ぶ時の台車として使ったり、ご飯を食べる時のテーブルとして使っているから、ない時はとても困っていた」
老いらくさんがそう言った。
「そうですか。ごめんなさい」
ぼくは老いらくさんにぺこりと頭を下げて謝った。
「いいよ。いいよ。わしの大切な宝物がお前の役に立って、うれしいよ。今度また、お前に何かあった時は、これにお前を乗せて押していくよ」
老いらくさんがそう言った。ぼくはそれを聞いて、苦笑いした。
「できたらもうこれに乗りたくないですね」
ぼくはそう答えた。
「そうだろうなあ。お前の気持ちがよく分かるよ」
老いらくさんが、そう言った。
老いらくさんにスケートボードを返してから、ぼくは老いらくさんと別れて、うちへ帰っていった。そのあとずっと、うちの中でツヨシ―のことを考えていた。
翌朝早く目が覚めるとすぐに、ぼくはうちの外に出た。東の空が朝焼けに染まっていて、とてもきれいだった。しばらく朝焼けをじっと見ていたが、気持ちが弾んで、抑えきれなくなったので、うちの中に戻って妻猫に
「お母さん、これからスイレン跳びに行きませんか」
と誘った。
「大丈夫ですか。まだ全快したわけではないのでしょう」
妻猫が気遣ってくれた。
「大丈夫です。もうすっかりよくなりましたから」
ぼくは、そう答えた。
「そうですか。だったらお父さんの全快を祝って、スイレン跳びをして遊びましょう」
妻猫がそう言った。
それからまもなく、ぼくは妻猫といっしょにうちを出て湖畔に行った。
スイレン跳びというのは、スイレンの上をぴょんぴょん跳びまわる遊びのことだ。天気がよい時には、妻猫といっしょに、いつもこれをして遊んでいる。楽しいし、運動にもなるので、ぼくも妻猫も大好きな遊びだ。ぼくも妻猫も泳げるので、湖の中に落ちてもすぐにスイレンの上に戻ることができる。交互に跳んで先に落ちたほうが負け。これまで何度もスイレン跳びをしているが、ぼくが負けることのほうが多かった。でも今日は絶対に負けたくなかった。先に疲れた方が負けることが多いので、元気になったことを見せるためだ。
ぼくと妻猫が湖畔に着くと、カエルたちがたくさん集まってきた。団長がぼくに声をかけた。
「お前が湖の中に蹴り込まれて意識を失ったので、おれたちは、みんなとても心配していた。スイレンの上にいるお前に声をかけたが反応がなかったので、もうダメかと思っていた」
団長が目を潤ませながらそう言った。
「おかげさまで、いくつもの幸運が重なって、かろうじて九死に一生を得ることができました」
ぼくは団長に、そう答えた。
「よかった、よかった」
団長はそう言って、胸のつかえがとれたような顔をしていた。
ぼくはそのあと団長に妻猫のことを紹介した。団長は妻猫を見ながら
「お前にふさわしくて、とても上品できれいな奥さんだね」
と、ぼくに言った。
「ありがとうございます」
ぼくは団長に、そう答えた。団長が言ったことを、ぼくは妻猫に伝えた。すると妻猫がうれしそうな顔をしていた。団長はそのあとオンプーを妻猫に紹介した。妻猫はオンプーを見ながら
「団長にふさわしくて、声がとてもきれいな奥さんですね」
と言った。妻猫が言ったことを、ぼくはオンプーに伝えた。するとオンプーが明るい顔をしながら
「ありがとうございます。ご主人のおかげで、わたしこそ、九死に一生を得ることができました。このご恩は一生忘れません」
と言った。オンプーが言ったことを、ぼくは妻猫に伝えた。すると妻猫が満更でもなさそうな顔をしていた。
ぼくと妻猫はそれからまもなく、スイレン跳びを始めた。カエルたちは楽しそうな顔をしながら、ぼくと妻猫のゲームを見ていた。ぼくも妻猫もお互いに負けてはならないとばかりに競い合って、スイレンの上をぴょんぴょん跳びまわっていた。なかなか勝負がつかなかった。妻猫はしなやかな動きでツバメのように、すいすいと跳んでいた。ぼくはスリリングな身のこなしで、スイレンの上を次から次に飛び移っていた。カエルたちに見つめられるなか、ぼくも妻猫も頑張ったので、十分ぐらい跳び続けても、どちらも一回も跳び損ねて湖の中に落ちることはなかった。カエルたちの万雷の拍手喝采を浴びながら、ぼくも妻猫も夢中になって跳び続けていた。カエルたちの中には、ぼくたちの真似をして、ペアを組んでスイレン跳びをしたり、スイレンの上でワルツの曲を歌って気分を盛り上げてくれるカエルもいた。団長もオンプーといっしょに、団員たちが歌うワルツの曲に乗って、踊るように軽快にスイレン跳びをしていた。ぼくと妻猫やカエルたちがスイレンの上で跳んだり、はねたりしているのを、たくさんの人たちが見ていた。カエルたちが跳んだり、はねたりしているのを見ても、何とも思っていないようだったが、ぼくと妻猫がスイレンの上で跳びまわっているのを見て、みんな不思議そうな顔をしながら見ていた。ぼくも妻猫も人の視線を少しも気にとめないで楽しく跳びまわっていた。
スイレン跳びを始めてから十五分ぐらいがたったころ、妻猫の息が少しあがってきて、跳び移るスピードが落ちてきた。
「負けたわ」
妻猫がそう言った。
「まだ水の中に落ちていないから勝負はついていないよ」
ぼくはそう答えた。
「もう、わたしは、いっぱいいっぱいだから、これ以上跳べそうにないわ。お父さんはあんなに重傷を負ったにもかかわらず、まだ余力があって、すごいわ」
妻猫がそう言った。
それからまもなく、ぼくと妻猫はスイレン跳びをやめて、湖畔にあがった。それを見て、カエルたちもスイレン跳びや合唱やダンスをやめて、湖の中に次から次に飛び込んで姿が見えなくなった。ぼくはそれを見て、少しけげんに思った。いつもだったら、カエルたちはこれから眼鏡橋の上に集まって、合唱のパートごとに分かれて、ハエやカの駆除に出かけていく時間だったからだ。ぼくは団長に
「今日はどうして駆除に行かないのですか」
と聞いた。すると団長が
「この町には、ハエやカは、もういなくなったから、駆除に出かけていく必要がなくなったからだ」
と答えた。
「そうですか。ご苦労様でした。みなさんのおかげで、この町はとても衛生的な町になりました。心よりお礼申し上げます」
ぼくは丁重にお辞儀をしながら、団長にそう答えた。団長は、にっこりと、うなずいた。
「この町に来て、いろいろな出来事があった。危険な目にも遭ったが、忘れられない思い出もたくさんあった。お前と出会ったことも、忘れられない思い出の一つだ」
団長がそう言った。
「ぼくも団長と出会えて、とてもうれしく思っています。よかったら、これからもずっと、この町にいてくれませんか」
ぼくは団長に、そう言った。
「お前の気持ちはありがたいが、おれはこれから団員たちを引き連れて、田舎へ帰ることにする。田舎ではこれから農作物の収穫時期を迎えるので、おれたちの力で農作物を害虫から守ってあげなければならないから」
団長がそう言った。
「そうですか。それは残念ですね」
ぼくは名残惜しそうに、そう答えた。
「ハエやカの駆除ができたことで、おれも団員たちも、とてもうれしく思っている。ただ、気がかりなことが一つある。サカダチーのことだ。サカダチーはどうしてまだ戻ってこないのだ」
団長が心配そうな声で、そう聞いた。
「サカダチ―、いえツヨシ―は今、馬小跳という子どもの家にいて、傷の手当てをしてもらっています。傷が治ったら、馬小跳が、ここに連れてくると思います」
ぼくはそう答えた。すると団長が
「お前はどうして、その馬小跳という子どもをそんなに信用しているのだ」
と聞いた。
「馬小跳は動物が大好きな子どもだからです」
ぼくはそう答えた。
「どうしてそう言えるのだ」
団長はまだ半信半疑の顔をしていた。
「馬小跳はツヨシ―を助けるために仲間といっしょに危険をおかしました。動物が大好きだから、勇気を奮って困難なことをしました」
ぼくはそう答えてから、馬小跳たちが何をしたかを団長に話した。ぼくの話を聞いて団長が
「分かった。そうだったのか。サカダチ―を助けるために危険なことをしてくれたのか」
と言って、うなずいていた。
『噂をすれば影がさす』と言うが、ぼくが団長と話をしている時に、公園の入口付近にある眼鏡橋の上に見覚えのある人影が見えた。馬小跳が、唐飛や張達や毛超といっしょに横に並びながら、公園の中に入ってきているのが見えた。
「団長、馬小跳たちが、こちらへ近づいてきています。もしかしたらツヨシ―を連れてきているかもしれません。ぼくはこれから出迎えに行きます。ここでしばらく待っていてください」
ぼくは団長にそう言った。
「分かった。そうする」
団長がそう答えた。
ぼくはそれからまもなく、馬小跳たちのところまで走っていった。ぼくの姿に気がついて馬小跳がびっくりしていた。
「やあ、笑い猫、久しぶりだなあ」
馬小跳がそう言った。ぼくが危ない目に何度も遭って、危うく命を落としかけたことを馬小跳は何も知らないでいたから、本当は話してあげたかった。でもぼくには人の言葉が話せないので、うなずくしかなかった。
「あの日、お前が、おれたちを遊園地へ連れていってくれたおかげで、ツヨシ―を助けることができた。ありがとう」
馬小跳がそう言って、ぼくの頭をそっとなでてくれた。
「お前があいつらに、かみついて追っ手をさえぎってくれたおかげで、おれはツヨシ―を入れた袋を持ったまま、逃げうせることができた、これはおれからのお礼だ」
張達は、そう言って、キャットフードをぼくに見せた。
「おれたちはこれから、お前のうちへ食糧を持っていくところだ」
毛超はそう言った。
「おれはお前に干しビーフを持ってきたぞ。お前が一番好きな食べ物だからな」
唐飛はそう言って、ポケットの中から干しビーフが入った袋を取り出した。それを見て毛超がけげんそうな顔をして
「笑い猫が一番好きな食べ物はミニトマトだぞ。お前は知らなかったのか」
と言って、唐飛を非難した。唐飛と毛超はいずれも自分の正しさを主張して譲らなかったので、しばらく言い争っていた。
「お前たち、けんかはやめろよ。みっともない」
張達がそう言って唐飛と毛超の間に入って、仲裁していた。
それからまもなく、馬小跳たちは、ぼくのあとについてきた。ぼくは馬小跳たちを、先ほど団長と話をしていた場所へ連れていった。団長がぼくの姿に気がついて
「やあ、戻ってきたか」
と声をかけた。ぼくはうなずいた。
「青いシャツを着ている男の子が馬小跳で、あとはみんな馬小跳の友だちです」
ぼくは団長に、そう言った。団長は、馬小跳たちを、一人一人、見まわしながら
「この子たちが、サカダチ―を助けてくれたのか」
と聞いた。
「そうです。危険をおかして助けてくれました」
ぼくはそう答えた。
馬小跳はそれからまもなく手に持っていた箱のふたを開けた。すると箱の中からツヨシ―が、元気よくぴょんと飛び出してきて、前足で逆立ちをしながら歩き始めた。それを見て、団長がすぐにツヨシ―に近づいてきて、久しぶりの再会を喜び合っていた。やけどを負って痛々しく見えたツヨシ―の足の傷は、もうすっかり完治しているように見えた。
(よかった、よかった)
ぼくはそう思った。団長とツヨシ―は、それからまもなく、異口同音に
「ありがとう」
と言って、たくさんの仲間たちが待っている翠湖の中に飛び込んでいった。ツヨシ―が無事に帰ってきたことを知って、ツヨシ―の周りにカエルたちがたくさん集まってきて喜び合っているのが見えた。団長の奥さんであるオンプーはスイレンの上に乗って、ソロで喜びの歌を歌っていた。ツヨシ―は合唱団のアイドルなので、みんなからとても愛されているのだなあと、ぼくは思った。
馬小跳と仲間たちは、ツヨシ―を助けて、団員たちのもとへ無事に帰してあげることができたので、とても満たされたような顔をしていた。馬小跳たちは、そのあとしばらく翠湖の周りを散策してから、ぼくと妻猫にあげる食糧を、うちまで持ってきてくれた。馬小跳たちの優しさに感謝しながら、妻猫といっしょに、キャットフードやミニトマトや干しビーフを食べたりしていた。馬小跳たちが帰っていったあと、ぼくは食後の運動をするために再び、うちの外に出て、湖畔にそって散歩を始めた。するとその時、たまたますれ違った若い女性二人の会話が耳に入った。
「ここにいるカエルのことがテレビのニュースに出ていたわ」
「そうだね。この町が環境衛生都市に選ばれたのは、ここにいるカエルのおかげだとアナウンサーが話していたわ」
「環境衛生都市に選ばれたのは、とても名誉なことだわ」
「そうだね。カエルたちがこの町に来てから、ハエやカがだんだん少なくなっていたから、そのことが評価されたのかもしれないわね」
若い女性二人は、そのように話していた。ぼくはそれを聞いて、とてもうれしくなった。
(今日は何と喜ばしい日だろう)
ぼくはそう思った。ぼくの体はすっかり回復してスイレン跳びで妻猫に負けなかったし、ツヨシ―も元気になって戻ってきた。この町が環境衛生都市に選ばれたという、おめでたいニュースも思いがけず小耳にはさんだ。
浮き浮きしながら、湖畔を歩いていると、向こうから老いらくさんがやってきた。
「やあ、笑い猫、何かいいことでもあったのかい」
ぼくの顔がにこにこしているのを見て、老いらくさんが聞いた。ぼくは今日あった、うれしい出来事を老いらくさんに話した。
「そうか。それは本当におめでたいことだな。わしもうれしいよ。この町が栄えある環境衛生都市に選ばれた功労者はカエルだから、カエルにはこれからもずっとこの町にいて、ますます環境衛生のために尽くしてもらいたいと願っている。わしの気持ちをお前から団長に、伝えてもらえないか」
老いらくさんがそう言った。
「ぼくもそう願っているのですが、団長はもうすぐ田舎へ帰ると言っています。この町にいるハエやカはすべて駆除できたし、田舎ではこれから農作物の収穫時期を迎えるので、自分たちの力で農作物を守るために田舎に帰らなければならないと言っています」
ぼくはそう答えた。
「そうか、それは残念だな」
老いらくさんが寂しそうに、ぽつりと、そう言った。
日が暮れて、空に明るい月が、こうこうと輝き始めたころ、翠湖の上に浮かんでいるスイレンの上に、パートごとに分かれたカエル合唱団の団員たちがたくさん載っていた。翠湖の湖畔にある『翠湖公園』と書かれた石碑が指揮台となっていて、指揮台の上には団長が手を広げて立っていた。団長は団員たちを見回しながら、それぞれのパートの呼吸を見計らっていた。すべてのパートで歌い始める準備が首尾よく整ったのを確かめてから、団長は手を動かし始めた。団長の手の動きを見ながら、団員たちはパートごとに声をそろえて三部合唱で歌い始めた。
「ケロ、ケロ、ケロ……」
高音部のカエルたちは、ソプラノやテノールの美しい声で、高らかに歌っていた。その声は遠くまで軽やかに響きわたり、歌声に引き寄せられるように、たくさんの人たちが夜更けの翠湖公園にやってきて静かに聞き入っていた。
「クワッ、クワッ、クワッ……」
中音部のカエルたちは、メゾソプラノやバリトンのまろやかな声で、滑らかに歌っていた。節回しがとてもきれいで、感動的な歌声が、ふわふわと宙に流れていていたので、多くの人たちが興味をそそられて翠湖公園にやってきて酔いしれていた。
低音部のカエルたちは、アルトやバスの厳かな声で、重々しく、どっしりと歌っていた。その声は、おなかにずっしりと響くような力強さにあふれていて、たくましい歌声に誘われて、三々五々と連れ立って聞きにやってくる人たちがいて、聞く人に勇気と元気を与えていた。
団長の卓越した指揮ぶりも多くの人たちに深い感動を与えていた。曲調に合わせて、腕の振り方を上下左右に巧みに動かしながら、団員たちをうまくリードしていた。
団員たちのハーモニーの取れた三部合唱は夜遅くまで響きわたっていた。これが団員たちがこの町で歌う最後の合唱となった。

