野いちご源氏物語 三七 鈴虫(すずむし)

お酒が回ったころに上皇(じょうこう)様からお手紙が届いた。
入道(にゅうどう)の上皇様の方ではなくて、源氏(げんじ)の君(きみ)の秘密のお子であられる新上皇様よ。
内裏(だいり)での宴(うたげ)が中止になったことで、上皇様のお住まいの方へ集まった貴族たちも多かったみたい。
「六条(ろくじょう)の院(いん)に集まった貴族たちと一緒にこちらにいらっしゃいませんか」と、お手紙で源氏の君をお誘いになったの。
「内裏を離れて寂しい暮らしをしている私のところにも、月の光は忘れずに降(ふ)り注(そそ)いでくれます。あなたとその月を愛(め)でたいのですが」
源氏の君は恐縮(きょうしゅく)なさる。

<参上しようと思えばいつだってできたにもかかわらず、しばらくご機嫌(きげん)伺(うかが)いに上がっていなかった。せっかく帝(みかど)の位(くらい)をお下(お)りになってのんびりなさっているのに、私がお相手をしないのは心外(しんがい)だとお思いだろう。恐れ多く申し訳ないことだ>
急なことではあるけれど、上皇様のお住まいに参上しようとなさる。
「今でも上皇様のことはご尊敬申し上げております。私の怠(なま)け癖(ぐせ)のせいで大変失礼いたしました」
お返事をお使者(ししゃ)に預けると、急いでご出発の準備をなさる。