答えが返ってくるとは思っていなかったのか、五十嵐社長は何度か瞬きをした。
「クロノスが線なら、カイロスは点──という時間の概念だった記憶ですが」
俺がそう付け加えると、五十嵐社長は手を打った。
「一ノ瀬くん!君、博識だな!モテるわけだ」
いいえ、という意味で手を振った。
「その通りだよ。クロノスは過去から未来へと流れる時間。カイロスは──その流れの中に突如現れる『運命の瞬間』だ」
うんめいの…しゅんかん…
俺と美咲が呟くように小さく復唱した。
「最後まで悩んでね……結局は『時間を扱う技術』って意味で、現実的な響きのクロノワークスにしたんだけどさ」
「……いい社名だと思ってます」
そう言った美咲の顔は見えなかったけど、五十嵐社長が満面の笑みを返した。
「結局はこの選ばなかった名をね、LYNXの代名詞である『未来予測シナリオ』の名として残したんだ」
五十嵐社長は画面を指差しそう言った。
「悪いね、どうでもいい話をしてしまったな」
俺と美咲は静かに首を振った。
「……よし結月君、進めよう」
「はい」
美咲の指先がキーボードの上に置かれた。
一度、深呼吸をしてから静かに打つ。
タッチ音の一つひとつが、空気を震わせるように響いた。
[Access point:KAIROS]
──Authentication Complete.
「……昨日のデータを引き込みました。
実行していいですか?」
「頼むよ。今日はセキュリティが静かで助かるな」
今日は…?
「画面には絶えずアラートが出てますが」
「内線が鳴らなきゃ問題ないさ」
美咲が肩を落とした。
「……昨日はやばかったってことですね」
五十嵐社長は笑い飛ばして「まあまあ」と美咲の肩を叩いた。
この豪快な人柄で、頼もしくも強引に事を押し切った場面があったのだろう。
美咲が俺を見てため息をついたけど、社長に対する絶対的な信頼がその表情の奥にはあった。
「クロノスが線なら、カイロスは点──という時間の概念だった記憶ですが」
俺がそう付け加えると、五十嵐社長は手を打った。
「一ノ瀬くん!君、博識だな!モテるわけだ」
いいえ、という意味で手を振った。
「その通りだよ。クロノスは過去から未来へと流れる時間。カイロスは──その流れの中に突如現れる『運命の瞬間』だ」
うんめいの…しゅんかん…
俺と美咲が呟くように小さく復唱した。
「最後まで悩んでね……結局は『時間を扱う技術』って意味で、現実的な響きのクロノワークスにしたんだけどさ」
「……いい社名だと思ってます」
そう言った美咲の顔は見えなかったけど、五十嵐社長が満面の笑みを返した。
「結局はこの選ばなかった名をね、LYNXの代名詞である『未来予測シナリオ』の名として残したんだ」
五十嵐社長は画面を指差しそう言った。
「悪いね、どうでもいい話をしてしまったな」
俺と美咲は静かに首を振った。
「……よし結月君、進めよう」
「はい」
美咲の指先がキーボードの上に置かれた。
一度、深呼吸をしてから静かに打つ。
タッチ音の一つひとつが、空気を震わせるように響いた。
[Access point:KAIROS]
──Authentication Complete.
「……昨日のデータを引き込みました。
実行していいですか?」
「頼むよ。今日はセキュリティが静かで助かるな」
今日は…?
「画面には絶えずアラートが出てますが」
「内線が鳴らなきゃ問題ないさ」
美咲が肩を落とした。
「……昨日はやばかったってことですね」
五十嵐社長は笑い飛ばして「まあまあ」と美咲の肩を叩いた。
この豪快な人柄で、頼もしくも強引に事を押し切った場面があったのだろう。
美咲が俺を見てため息をついたけど、社長に対する絶対的な信頼がその表情の奥にはあった。



