【STEP3: 行動トレース解析】
画面には
『匿名IDを解除しますか?』
の表示。
社長を見ると腕を組んだまま無言で頷いた。
YESを押す。
『PersonaTrace(匿名行動再構成AI)を起動します』
「ここから一気にいこう。時間はかからないよ。操作だけならね」
ホログラムの光が再び広がり、先ほどの交差点の俯瞰映像が浮かぶ。
私はキーボードを叩いて静かにコマンドを送った。
「対象:匿名ID-C/匿名ID-D」
「解析範囲:2025年8月15日から1週間」
「解析スコープ:個人行動/接触履歴/通信履歴」
「Chronomap連動:on」
「CausalLink Analyzer連動:on」
白く輝く線でCと Dの軌跡を早送りで描き出し、渋谷の地図上に淡く流れ始める。
その時、私は画面上に思いがけないものを見た。
「えっ…うちに?!社長、どちらかがうちの社を訪れています。頻度から社員ではなさそうですが…」
「取引先か、出入りしている業者か──おっと来たな」
その瞬間、端末の片隅で赤い警告ランプが点滅した。
《警告:未承認アクセス検出》
《承認照合プロセス実行中》
《対象:管理権限アカウント Misaki Yuzuki》
社長が画面を見据えたまま、低く呟く。
「大人しかったけどセキュリティ部が見ているんだったな」
すぐに内線が鳴る。
社長がボタンを押してハンズフリーで応答した。
スピーカーから静かな声が響いた。
『セキュリティ部の黒瀬です。分析ラインで高位アクセスが走っています。確認ですが、その操作は申請外です』
「範囲内だろう?行動トレース解析を行うと私から申請済みだよ」
『しかし……内容が申請書と一致していません。これ以上の展開は監査対象となる可能性が——』
「黒瀬君」
社長の声が少しだけ鋭くなった。
「モニタリングしていただろう?LYNXの異変を。結果はすべて厚労省と関連期間に提出する。」
『しかしマスキング解除は…!』
「結月くんの申請に不正はない、私の立場をかけて断言しよう。今はLYNXの異常の意味を重要視してほしい」
受話器の向こうが一瞬、沈黙した。
『……承知しました。進行を続けてください。全ログは引き続きリアルタイムで監視継続いたします』
通信が切れる。
私は少し戸惑ったように社長を見上げた。
「異変って……」
社長は小さく息を吐き、手を組んだ。
「LYNXはあくまで論理とデータの集合体だ。なのに、“分からない”と答えた。それは──異変という以外にない」
社長は言葉にする以上に大きく動揺しているのだと思った。
生み出した時から想像もできないほどLYNXは急成長しているのに、どう成長したのか見えないという畏れを抱いているのかもしれない。
「セキュリティ側は疑うのが仕事だからね」
「……ありがとうございます。もちろん分かっています」
社長はわずかに微笑んだ。
「君は研究者として自分を裏切ることはしない。セキュリティ部も記憶に新しいはずだ、あのことは…」
私はこの申請をせずに、なんとか管理モードに入り込もうと画策していたんです。
悠真くんが厳しい言葉で止めてくれなければ私はなにをしたか分からない。
心の中で懺悔しながら、社長の言葉に思わず聞き返した。
「あのこと……ですか?」
「いや、私から見たら過去の出来事でね」
社長はそれ以上言わず、ホログラムに目を戻した。その瞳の奥に、社長だけが知る過去の記憶が一瞬、影を落とす。
ホログラム上で、Cと Dの光跡が途切れた。
『トレース完了。関連因果経路:検出』
『対象C:人物特定情報合致しました』
『対象 D:人物特定情報合致しました』
——沈黙の中、画面の光だけが浮かび上がっていた。
「交差点は携帯端末の位置情報をたよりに再現している。ただね、携帯端末だけでは本人は特定するのに弱いんだ。自分以外にに預けたり貸したりできてしまうからね。」
「行動トレースであらゆる個人情報が合致しているか確認しているんですね?」
「そういうこと。どんな情報を拾っているかは言わないでおくよ。まあ交通系ICカード、クレジットカード、職場のログイン情報とか、色々だね。私たちは歩くだけで個人情報をばら撒いているということだけは確かだよ。行動トレースではそれを拾い集めたわけだね」
話しているうちにLYNXが自動的に次のシステムへ移行を始めた。
『つづけてIDVault(識別情報復号モジュール)を起動します……』
画面には
『匿名IDを解除しますか?』
の表示。
社長を見ると腕を組んだまま無言で頷いた。
YESを押す。
『PersonaTrace(匿名行動再構成AI)を起動します』
「ここから一気にいこう。時間はかからないよ。操作だけならね」
ホログラムの光が再び広がり、先ほどの交差点の俯瞰映像が浮かぶ。
私はキーボードを叩いて静かにコマンドを送った。
「対象:匿名ID-C/匿名ID-D」
「解析範囲:2025年8月15日から1週間」
「解析スコープ:個人行動/接触履歴/通信履歴」
「Chronomap連動:on」
「CausalLink Analyzer連動:on」
白く輝く線でCと Dの軌跡を早送りで描き出し、渋谷の地図上に淡く流れ始める。
その時、私は画面上に思いがけないものを見た。
「えっ…うちに?!社長、どちらかがうちの社を訪れています。頻度から社員ではなさそうですが…」
「取引先か、出入りしている業者か──おっと来たな」
その瞬間、端末の片隅で赤い警告ランプが点滅した。
《警告:未承認アクセス検出》
《承認照合プロセス実行中》
《対象:管理権限アカウント Misaki Yuzuki》
社長が画面を見据えたまま、低く呟く。
「大人しかったけどセキュリティ部が見ているんだったな」
すぐに内線が鳴る。
社長がボタンを押してハンズフリーで応答した。
スピーカーから静かな声が響いた。
『セキュリティ部の黒瀬です。分析ラインで高位アクセスが走っています。確認ですが、その操作は申請外です』
「範囲内だろう?行動トレース解析を行うと私から申請済みだよ」
『しかし……内容が申請書と一致していません。これ以上の展開は監査対象となる可能性が——』
「黒瀬君」
社長の声が少しだけ鋭くなった。
「モニタリングしていただろう?LYNXの異変を。結果はすべて厚労省と関連期間に提出する。」
『しかしマスキング解除は…!』
「結月くんの申請に不正はない、私の立場をかけて断言しよう。今はLYNXの異常の意味を重要視してほしい」
受話器の向こうが一瞬、沈黙した。
『……承知しました。進行を続けてください。全ログは引き続きリアルタイムで監視継続いたします』
通信が切れる。
私は少し戸惑ったように社長を見上げた。
「異変って……」
社長は小さく息を吐き、手を組んだ。
「LYNXはあくまで論理とデータの集合体だ。なのに、“分からない”と答えた。それは──異変という以外にない」
社長は言葉にする以上に大きく動揺しているのだと思った。
生み出した時から想像もできないほどLYNXは急成長しているのに、どう成長したのか見えないという畏れを抱いているのかもしれない。
「セキュリティ側は疑うのが仕事だからね」
「……ありがとうございます。もちろん分かっています」
社長はわずかに微笑んだ。
「君は研究者として自分を裏切ることはしない。セキュリティ部も記憶に新しいはずだ、あのことは…」
私はこの申請をせずに、なんとか管理モードに入り込もうと画策していたんです。
悠真くんが厳しい言葉で止めてくれなければ私はなにをしたか分からない。
心の中で懺悔しながら、社長の言葉に思わず聞き返した。
「あのこと……ですか?」
「いや、私から見たら過去の出来事でね」
社長はそれ以上言わず、ホログラムに目を戻した。その瞳の奥に、社長だけが知る過去の記憶が一瞬、影を落とす。
ホログラム上で、Cと Dの光跡が途切れた。
『トレース完了。関連因果経路:検出』
『対象C:人物特定情報合致しました』
『対象 D:人物特定情報合致しました』
——沈黙の中、画面の光だけが浮かび上がっていた。
「交差点は携帯端末の位置情報をたよりに再現している。ただね、携帯端末だけでは本人は特定するのに弱いんだ。自分以外にに預けたり貸したりできてしまうからね。」
「行動トレースであらゆる個人情報が合致しているか確認しているんですね?」
「そういうこと。どんな情報を拾っているかは言わないでおくよ。まあ交通系ICカード、クレジットカード、職場のログイン情報とか、色々だね。私たちは歩くだけで個人情報をばら撒いているということだけは確かだよ。行動トレースではそれを拾い集めたわけだね」
話しているうちにLYNXが自動的に次のシステムへ移行を始めた。
『つづけてIDVault(識別情報復号モジュール)を起動します……』



