【STEP1: 再現】
『管理モード使用を確認しました。
以降の全データ処理はモニタリング対象です。』
管理モードを立ち上げると、画面中央に白い文字が浮かんだ。
社長の指示で「OK」を押すと表示は静かに消え、右上にLYNX(山猫)のシルエットが明滅し始める。
その下に小さく、
監査モード:有効
(SECURITY NODE #A17 接続中)
の文字。見られているという緊張感が、いやでも全身を包んだ。
「さて──先ほどの流れに沿って進めよう。
まずはSTEP 1:再現だ。メニューに“ChronoMap”とあるだろう?それを開いてみて」
「ChronoMap……“時間の地図”、ですね」
起動すると、中央に立体的な球体モデルが浮かんだ。地球のようにも見えるが、よく見ると無数の点の集合で構成されている。
「膨大なデータノードの集合体だ。LYNXに蓄積された社会全体の行動ログ、位置情報、通信履歴、ニュース、行政データ──まさにLYNXの核そのもの。日にち・時間・場所……我々はこれを“時空位置変数”と呼んでいる。指定すれば、その位置の情報を取り出せる」
社長の声に従い、私は入力を進めた。
「2025年8月15日 9:30〜9:40、渋谷スクランブル交差点。──入力しました。この“抽出”を押せばいいですか?」
「うん、それでいい」
球体がゆっくり回り始めた瞬間、赤い警告アイコンが点滅する。
『許可コードを確認……』
「こうやって頻繁にセキュリティ側のチェックが入るけど、心配しないでいいよ」
『社長裁可付き 進行可』
アラートが消えると同時に、ホログラム上にスクランブル交差点のリアルな空間が広がった。上空からの俯瞰。そこに無数の人型シルエットがゆっくりと立ち現れる。
「個人情報はマスキングされているが──あの時、確かにそこにいた人たちだ。まずは君と一ノ瀬くんを特定しよう。名前をヘボン式で、携帯番号、性別……わかる範囲で入力してくれ」
自分の情報を入れると、ひとりの頭上に赤い矢印が現れる。続けて一ノ瀬の情報を入れると、青い矢印が浮かんだ。
「よし、再構成完了。君が指定した瞬間の“世界状態”を再現している。歩くだけで無数の痕跡を残す──その痕跡を束ねれば録画のように正確に再現できる」
「ここからぶつかった相手を空間内で特定するんですね?」
無音のホログラム。群衆は出発を待つように静止している。そのどこかに、あの二人がいる。
「標準設定では接触イベントの抽出は手動だ。だが自動でマークさせた方が早い。距離と時差を変数に取って判定する方式でいこう」
社長が端末の操作メニューを呼び、可視化層の補助スクリプトを表示する。流れるようなコードの行間に、私は一行を追加した。
if (Distance(a, b) < 0.4 && TimeDiff(a, b) < 0.2) Mark(a,b,"contact");
「監査ノード、検知範囲ギリギリでしょうか…」
私の言葉に社長が軽く笑った。
「解析系の補助スクリプト扱いにすれば通る。監査側は視覚化補助までは追わないから」
Enterキーを押すと、ホログラム上の群衆が微かに揺らぎ、次の瞬間、頭上に赤と青のマーカーがある二人はそれぞれ接触、交差点の中央近くで──黄色の光が二つ、ひときわ強く瞬いた。
社長が画面に身を乗り出す。
「ここだね」
「はい……検出完了です」
声が上ずるのを感じた。
社長は静かに言った。
「LYNXは彼らが何者かを知っている──だがマスキングされていて私達にはまだ何者か見えない。これからそのマスクを外して、彼らの正体を紐解いていこう」
ChronoMapを終了すると、画面には小さく表示された。
『SESSION CLOSED.
監査ログがセキュリティ部に転送されました。』
その文字を確認して、私は細く長く、ゆっくりと、息を吐きだした。
『管理モード使用を確認しました。
以降の全データ処理はモニタリング対象です。』
管理モードを立ち上げると、画面中央に白い文字が浮かんだ。
社長の指示で「OK」を押すと表示は静かに消え、右上にLYNX(山猫)のシルエットが明滅し始める。
その下に小さく、
監査モード:有効
(SECURITY NODE #A17 接続中)
の文字。見られているという緊張感が、いやでも全身を包んだ。
「さて──先ほどの流れに沿って進めよう。
まずはSTEP 1:再現だ。メニューに“ChronoMap”とあるだろう?それを開いてみて」
「ChronoMap……“時間の地図”、ですね」
起動すると、中央に立体的な球体モデルが浮かんだ。地球のようにも見えるが、よく見ると無数の点の集合で構成されている。
「膨大なデータノードの集合体だ。LYNXに蓄積された社会全体の行動ログ、位置情報、通信履歴、ニュース、行政データ──まさにLYNXの核そのもの。日にち・時間・場所……我々はこれを“時空位置変数”と呼んでいる。指定すれば、その位置の情報を取り出せる」
社長の声に従い、私は入力を進めた。
「2025年8月15日 9:30〜9:40、渋谷スクランブル交差点。──入力しました。この“抽出”を押せばいいですか?」
「うん、それでいい」
球体がゆっくり回り始めた瞬間、赤い警告アイコンが点滅する。
『許可コードを確認……』
「こうやって頻繁にセキュリティ側のチェックが入るけど、心配しないでいいよ」
『社長裁可付き 進行可』
アラートが消えると同時に、ホログラム上にスクランブル交差点のリアルな空間が広がった。上空からの俯瞰。そこに無数の人型シルエットがゆっくりと立ち現れる。
「個人情報はマスキングされているが──あの時、確かにそこにいた人たちだ。まずは君と一ノ瀬くんを特定しよう。名前をヘボン式で、携帯番号、性別……わかる範囲で入力してくれ」
自分の情報を入れると、ひとりの頭上に赤い矢印が現れる。続けて一ノ瀬の情報を入れると、青い矢印が浮かんだ。
「よし、再構成完了。君が指定した瞬間の“世界状態”を再現している。歩くだけで無数の痕跡を残す──その痕跡を束ねれば録画のように正確に再現できる」
「ここからぶつかった相手を空間内で特定するんですね?」
無音のホログラム。群衆は出発を待つように静止している。そのどこかに、あの二人がいる。
「標準設定では接触イベントの抽出は手動だ。だが自動でマークさせた方が早い。距離と時差を変数に取って判定する方式でいこう」
社長が端末の操作メニューを呼び、可視化層の補助スクリプトを表示する。流れるようなコードの行間に、私は一行を追加した。
if (Distance(a, b) < 0.4 && TimeDiff(a, b) < 0.2) Mark(a,b,"contact");
「監査ノード、検知範囲ギリギリでしょうか…」
私の言葉に社長が軽く笑った。
「解析系の補助スクリプト扱いにすれば通る。監査側は視覚化補助までは追わないから」
Enterキーを押すと、ホログラム上の群衆が微かに揺らぎ、次の瞬間、頭上に赤と青のマーカーがある二人はそれぞれ接触、交差点の中央近くで──黄色の光が二つ、ひときわ強く瞬いた。
社長が画面に身を乗り出す。
「ここだね」
「はい……検出完了です」
声が上ずるのを感じた。
社長は静かに言った。
「LYNXは彼らが何者かを知っている──だがマスキングされていて私達にはまだ何者か見えない。これからそのマスクを外して、彼らの正体を紐解いていこう」
ChronoMapを終了すると、画面には小さく表示された。
『SESSION CLOSED.
監査ログがセキュリティ部に転送されました。』
その文字を確認して、私は細く長く、ゆっくりと、息を吐きだした。



