ここから先は話の流れ次第では言わないわけにいかないだろう。
社長がかつて私を信じてくれたように、私も社長を信じて──
ここに向かう途中でLYNXに問いかけた。
社長にタイムリープを話してもいいかと。
「LYNX:
対象:クロノワークス代表取締役・五十嵐社長。
内容:タイムリープに関する事実の開示。
この行動により想定される未来分岐は、主に三つです。
①否定:信頼関係が一時的に損なわれ、進行中プロジェクトに影響(確率42%)
②保留:社長が真偽不明の情報として受け止め、内部記録として留保(確率37%)
③受容:社長が話を受け入れ、あなたの行動を支援(確率21%)
ただし、“受容”の確率には未知の変数が含まれています。
―あなた自身の決断です。
あなたがどこまで社長を本気で信じているか。
それは、私の演算領域では測定できません。」
「……私が行ったシミュレーションは、渋谷スクランブル交差点での人対人の衝突パターンです。そして、その場合の未来予測値をM.O.S.で確認しています」
M.O.S.
これはMulti-Outcome Switch(多結果分岐)のシステム名の略称で、LYNX個人向けではもしもスイッチの名前で実装されている。
「……なるほどね」
社長は小さく息を吐いた。
「一ついいかい?君の話を聞いた印象だが──
シミュレーションの結果、2人の男女が浮かび上がったのではなく、2人の男女ありきのシミュレーションだったんじゃないのかな?」
「っ……」
そこを言われるとは正直思ってもいなかった。
「……社長……いつも思っていました。社長はLYNXそのものだなって」
会議や議論の場でも、紛糾しても膠着しても最後には社長が描いた結論に辿り着く。誰が何を言うのか知っているかのように。
「私が最後に何を言うのか社長はご存知なんじゃないかって、今、全てを見透かされている気がします」
「まさか、洞察力だって山根君の方が上だし、妻にも気が利かないと叱られてばかりさ。
ただ、部下が何かを隠して言い淀んでいるなら言えるように手助けするのが私の役目かなと思うよ。──続けようか」
学生時代、感情の揺らぎをコード化することを無意味だと担当教官に言われた。
テストと面接で大手の通信会社やテック企業に内定はとったけど、私の研究テーマを必要とするところはなかった。
この会社だけが君の研究が必要だと言ってくれた。
社長だけが君の研究がうちに必要だと信じていると。
「そもそもだが。LYNXのあらゆる機能を駆使し、君がどれだけ改造コードでオリジナルの機能を追加したとしてもだ。
未来のパンデミックの期間を左右する何か原因があったとして、2人の男女が原因だと辿り着く術はLYNXにはない」
その通りだった。
「パンデミックと2人の男女、この二つの要素を結び付ける何かがあったんだね?」
「はい」
私は覚悟を決めて社長を正面から見つめた。
「その日、2025年8月15日の9時30分頃でした。私は、ある女性にスクランブル交差点でぶつかりました。先ほどから出ている男女のうちの女性にです」
社長が頷いたのを確認して続けた。
「めまいがして、視界が暗転しました。一瞬のことでしたが意識が戻った時、私のいる時間は、
──2030年8月15日でした」
社長がかつて私を信じてくれたように、私も社長を信じて──
ここに向かう途中でLYNXに問いかけた。
社長にタイムリープを話してもいいかと。
「LYNX:
対象:クロノワークス代表取締役・五十嵐社長。
内容:タイムリープに関する事実の開示。
この行動により想定される未来分岐は、主に三つです。
①否定:信頼関係が一時的に損なわれ、進行中プロジェクトに影響(確率42%)
②保留:社長が真偽不明の情報として受け止め、内部記録として留保(確率37%)
③受容:社長が話を受け入れ、あなたの行動を支援(確率21%)
ただし、“受容”の確率には未知の変数が含まれています。
―あなた自身の決断です。
あなたがどこまで社長を本気で信じているか。
それは、私の演算領域では測定できません。」
「……私が行ったシミュレーションは、渋谷スクランブル交差点での人対人の衝突パターンです。そして、その場合の未来予測値をM.O.S.で確認しています」
M.O.S.
これはMulti-Outcome Switch(多結果分岐)のシステム名の略称で、LYNX個人向けではもしもスイッチの名前で実装されている。
「……なるほどね」
社長は小さく息を吐いた。
「一ついいかい?君の話を聞いた印象だが──
シミュレーションの結果、2人の男女が浮かび上がったのではなく、2人の男女ありきのシミュレーションだったんじゃないのかな?」
「っ……」
そこを言われるとは正直思ってもいなかった。
「……社長……いつも思っていました。社長はLYNXそのものだなって」
会議や議論の場でも、紛糾しても膠着しても最後には社長が描いた結論に辿り着く。誰が何を言うのか知っているかのように。
「私が最後に何を言うのか社長はご存知なんじゃないかって、今、全てを見透かされている気がします」
「まさか、洞察力だって山根君の方が上だし、妻にも気が利かないと叱られてばかりさ。
ただ、部下が何かを隠して言い淀んでいるなら言えるように手助けするのが私の役目かなと思うよ。──続けようか」
学生時代、感情の揺らぎをコード化することを無意味だと担当教官に言われた。
テストと面接で大手の通信会社やテック企業に内定はとったけど、私の研究テーマを必要とするところはなかった。
この会社だけが君の研究が必要だと言ってくれた。
社長だけが君の研究がうちに必要だと信じていると。
「そもそもだが。LYNXのあらゆる機能を駆使し、君がどれだけ改造コードでオリジナルの機能を追加したとしてもだ。
未来のパンデミックの期間を左右する何か原因があったとして、2人の男女が原因だと辿り着く術はLYNXにはない」
その通りだった。
「パンデミックと2人の男女、この二つの要素を結び付ける何かがあったんだね?」
「はい」
私は覚悟を決めて社長を正面から見つめた。
「その日、2025年8月15日の9時30分頃でした。私は、ある女性にスクランブル交差点でぶつかりました。先ほどから出ている男女のうちの女性にです」
社長が頷いたのを確認して続けた。
「めまいがして、視界が暗転しました。一瞬のことでしたが意識が戻った時、私のいる時間は、
──2030年8月15日でした」



