衛門の督様がご病床を抜け出されたことに女房たちは気づいていない。
「お眠りになりました」
とお聞きになった父君は、僧侶に会ってあれこれご相談なさる。
もう五十代半ばでいらっしゃるけれど、あいかわらず華やかなご性格で、よくお笑いになる明るい方なの。
そんな方が疲れきったお顔で、
「女の妖怪とやらを息子の体から追い出してやってください」
とあやしげな僧侶にお願いなさっている。
「またお経が始まったな。父君は何もご存じないから、『女の妖怪が憑りついているせいだ』という占い師の言葉を信じていらっしゃる。本当に女三の宮様の妖怪でも憑りついているなら、むしろうれしくありがたいことだが。
私のような過ちを起こして世間の噂になり、女はもちろん自分の評判も傷つけた男というのは昔からいたものだ。しかしだからといって、それなら私も平気だとは思えないのだよ。やはり源氏の君が特別な方だからだろうね。あの方に嫌われたら生きていけない。ありふれた罪などではない。
六条の院で源氏の君に睨まれたあのとき、私の体から魂が抜け出してしまったらしい。いまだに体に戻ってきていないから、もし六条の院のどこかで見かけたら叱っておいておくれ」
まるで抜け殻のように弱々しくなって、笑い泣きしながらお話しになる。
「姫宮様もいたたまれないお気持ちのようでいらっしゃいます」
お顔のやせてしまった姫宮様の、うつむいて沈みこんでいらっしゃるお姿が衛門の督様のお目に浮かぶ。
あまりにありありと見えたので、
<本当に私の魂が六条の院にあるのでは>
と身震いなさる。
「もう姫宮様のことは忘れよう。儚い恋だったというのに、このままではあの世でも執着が残って苦しむことになる。ただ、ご出産だけは気がかりだ。ご安産なさったと伺ってから死にたい。結局あの夜見た夢のことは誰にも話せなかった。ふつうの夫婦だったらおもしろおかしく話せただろうに。虚しいことだ」
お考えがまとまらず感傷的におなりのご様子なので、小侍従は気味が悪いけれど、ご同情する気持ちの方が勝って一緒に泣き出してしまう。
「お眠りになりました」
とお聞きになった父君は、僧侶に会ってあれこれご相談なさる。
もう五十代半ばでいらっしゃるけれど、あいかわらず華やかなご性格で、よくお笑いになる明るい方なの。
そんな方が疲れきったお顔で、
「女の妖怪とやらを息子の体から追い出してやってください」
とあやしげな僧侶にお願いなさっている。
「またお経が始まったな。父君は何もご存じないから、『女の妖怪が憑りついているせいだ』という占い師の言葉を信じていらっしゃる。本当に女三の宮様の妖怪でも憑りついているなら、むしろうれしくありがたいことだが。
私のような過ちを起こして世間の噂になり、女はもちろん自分の評判も傷つけた男というのは昔からいたものだ。しかしだからといって、それなら私も平気だとは思えないのだよ。やはり源氏の君が特別な方だからだろうね。あの方に嫌われたら生きていけない。ありふれた罪などではない。
六条の院で源氏の君に睨まれたあのとき、私の体から魂が抜け出してしまったらしい。いまだに体に戻ってきていないから、もし六条の院のどこかで見かけたら叱っておいておくれ」
まるで抜け殻のように弱々しくなって、笑い泣きしながらお話しになる。
「姫宮様もいたたまれないお気持ちのようでいらっしゃいます」
お顔のやせてしまった姫宮様の、うつむいて沈みこんでいらっしゃるお姿が衛門の督様のお目に浮かぶ。
あまりにありありと見えたので、
<本当に私の魂が六条の院にあるのでは>
と身震いなさる。
「もう姫宮様のことは忘れよう。儚い恋だったというのに、このままではあの世でも執着が残って苦しむことになる。ただ、ご出産だけは気がかりだ。ご安産なさったと伺ってから死にたい。結局あの夜見た夢のことは誰にも話せなかった。ふつうの夫婦だったらおもしろおかしく話せただろうに。虚しいことだ」
お考えがまとまらず感傷的におなりのご様子なので、小侍従は気味が悪いけれど、ご同情する気持ちの方が勝って一緒に泣き出してしまう。



