野いちご源氏物語 三五 柏木(かしわぎ)

父君(ちちぎみ)の元太政(だいじょう)大臣(だいじん)様は、病気を回復させる力があるという僧侶(そうりょ)をいろいろとお集めになる。
普段は山奥で修行(しゅぎょう)しているような荒々(あらあら)しい僧侶も、(わら)にもすがる思いでお招きになる。
「女の妖怪(ようかい)()りついています」
(うらな)()は父君に申し上げるけれど、具体的に誰かは分からないみたい。
新しくやって来た僧侶は、背が高く、いかにも()()のありそうな迫力(はくりょく)のある声でお(きょう)を読みはじめた。
「あぁ嫌だ、私は生まれつき(つみ)(ぶか)い人間なのだろう。ありがたいお経のはずなのに、私にはとても恐ろしく聞こえる。こんなものを聞いていたらかえって死期(しき)が早まってしまう」
小侍従(こじじゅう)(ひか)えている部屋へこっそりお行きになった。