それから大将様はたびたび女二の宮様をお見舞いなさる。
四月ごろの空は心地よくて、新緑の木立も美しい。
だけれど宮様と母御息所は何をご覧になっても悲しくて、心細くお暮らしだった。
そんなところへ大将様がいらっしゃったの。
簾の向こうに、喪中らしく灰色のついたてが置いてあるのがうっすらと見える。
その奥にいる女房たちや女童も喪服を着ているようだから、お分かりになっていても大将様のお胸はざわつく。
今日は縁側ではなく濡れ縁をお選びになって、さわやかなお庭を眺めていらっしゃる。
「大将様ほどのご身分の方に濡れ縁では失礼でございますから、いつもように御息所がご応対なさってくださいませ。そうすれば縁側にお入りになりましょう」
女房がお願いするけれど、近ごろ御息所はご体調がお悪い。
ものに寄りかかって休んでおられるので、仕方なく女房が応対役に出る。
お庭の木立は何の心配事もないように青々とした葉を茂らせている。
柏木と楓は枝を交差させて、他よりもいっそう若々しい色の葉がきらきらしている。
「おまえたちは仲が良さそうだな」
大将様はつぶやいて、そっと縁側にお入りになった。
くつろいだ格好でお座りになる。
簾の奥のお部屋には女二の宮様がいらっしゃるの。
「お庭の柏木と楓のように、私と仲良くなってくださるおつもりはありませんか。柏木の神様もお許しになると思うのですが。簾のなかに入れていただけないことが恨めしゅうございます」
生真面目な大将様だけれど、未亡人のお若い宮様に興味が惹かれて浮ついことをおっしゃる。
「御息所とお話しになるときのきちんとしたご態度もよいけれど、こういうお姿もすてきね」
女房たちはひそひそとほめそやす。
応対役の女房を通じて宮様がお返事なさった。
「そもそも柏木の神様はもうこちらにいらっしゃいませんけれど、いずれにせよ皇女の私がむやみに男性を近づけるわけにはまいりません。突然そのようなことをおっしゃっては見下されたような気がいたします」
<おっしゃるとおりだ>
大将様は苦笑いなさる。
御息所が出ていらっしゃる気配がしたので、さっと居ずまいを正される。
「世の中を悲しんで何か月も沈むように過ごしていたせいでしょうか、心が乱れてどうにもぼんやりしておりまして、失礼いたしました。たびたびお訪ねいただいていることがありがたくて、気力をふりしぼって起き上がってまいりました」
本当にお具合が悪そうでいらっしゃる。
「お嘆きはごもっともですが、ご体調を崩されるほど思いつめなさってはよろしくありません。何もかも運命で決まっていると申しますから」
御息所をお慰めしながらも、大将様は宮様のことをお考えになる。
<先ほどのお返事からして慎重なご性格のようだ。未亡人になったらなったで気楽にお暮らしになるような方ではあるまい。誇り高い皇女としては臣下とのご結婚だけでも恥とお思いだったろうに、一年経つかどうかのうちに未亡人になって、いっそう世間体が悪くなったとお苦しみだろう>
ますますお心が惹かれて、宮様のご様子を御息所にお尋ねになる。
ご自身でもどのような方か想像してごらんになるの。
<衛門の督が満足していなかったのだから、お顔立ちはそこまでお美しいわけではないのだろう。しかしおそろしくひどいというほどでさえなければ、女性を見た目で判断してはいけない。それは品の悪いことだ。結局はただ人柄だけが大切なのだ>
「私をお亡くなりになった夫君のようにお思いくださって、親しい者としてお扱いください」
いかにも口説くというふうではないけれど、熱心に宮様におっしゃる。
お背が高くご立派なのを拝見して、女房たちは亡き衛門の督様とお比べしている。
「宮様の婿君は優しく上品で愛嬌あふれる方でいらっしゃったけれど、こちらは男性的で華やかで、ふとしたときに『あぁ、お美しい』とため息が漏れるような方ですね」
ひそひそと話して、
「どうせなら新しい婿君としてこのお屋敷に出入りしてくださったらよいのに」
と言う女房もいるの。
四月ごろの空は心地よくて、新緑の木立も美しい。
だけれど宮様と母御息所は何をご覧になっても悲しくて、心細くお暮らしだった。
そんなところへ大将様がいらっしゃったの。
簾の向こうに、喪中らしく灰色のついたてが置いてあるのがうっすらと見える。
その奥にいる女房たちや女童も喪服を着ているようだから、お分かりになっていても大将様のお胸はざわつく。
今日は縁側ではなく濡れ縁をお選びになって、さわやかなお庭を眺めていらっしゃる。
「大将様ほどのご身分の方に濡れ縁では失礼でございますから、いつもように御息所がご応対なさってくださいませ。そうすれば縁側にお入りになりましょう」
女房がお願いするけれど、近ごろ御息所はご体調がお悪い。
ものに寄りかかって休んでおられるので、仕方なく女房が応対役に出る。
お庭の木立は何の心配事もないように青々とした葉を茂らせている。
柏木と楓は枝を交差させて、他よりもいっそう若々しい色の葉がきらきらしている。
「おまえたちは仲が良さそうだな」
大将様はつぶやいて、そっと縁側にお入りになった。
くつろいだ格好でお座りになる。
簾の奥のお部屋には女二の宮様がいらっしゃるの。
「お庭の柏木と楓のように、私と仲良くなってくださるおつもりはありませんか。柏木の神様もお許しになると思うのですが。簾のなかに入れていただけないことが恨めしゅうございます」
生真面目な大将様だけれど、未亡人のお若い宮様に興味が惹かれて浮ついことをおっしゃる。
「御息所とお話しになるときのきちんとしたご態度もよいけれど、こういうお姿もすてきね」
女房たちはひそひそとほめそやす。
応対役の女房を通じて宮様がお返事なさった。
「そもそも柏木の神様はもうこちらにいらっしゃいませんけれど、いずれにせよ皇女の私がむやみに男性を近づけるわけにはまいりません。突然そのようなことをおっしゃっては見下されたような気がいたします」
<おっしゃるとおりだ>
大将様は苦笑いなさる。
御息所が出ていらっしゃる気配がしたので、さっと居ずまいを正される。
「世の中を悲しんで何か月も沈むように過ごしていたせいでしょうか、心が乱れてどうにもぼんやりしておりまして、失礼いたしました。たびたびお訪ねいただいていることがありがたくて、気力をふりしぼって起き上がってまいりました」
本当にお具合が悪そうでいらっしゃる。
「お嘆きはごもっともですが、ご体調を崩されるほど思いつめなさってはよろしくありません。何もかも運命で決まっていると申しますから」
御息所をお慰めしながらも、大将様は宮様のことをお考えになる。
<先ほどのお返事からして慎重なご性格のようだ。未亡人になったらなったで気楽にお暮らしになるような方ではあるまい。誇り高い皇女としては臣下とのご結婚だけでも恥とお思いだったろうに、一年経つかどうかのうちに未亡人になって、いっそう世間体が悪くなったとお苦しみだろう>
ますますお心が惹かれて、宮様のご様子を御息所にお尋ねになる。
ご自身でもどのような方か想像してごらんになるの。
<衛門の督が満足していなかったのだから、お顔立ちはそこまでお美しいわけではないのだろう。しかしおそろしくひどいというほどでさえなければ、女性を見た目で判断してはいけない。それは品の悪いことだ。結局はただ人柄だけが大切なのだ>
「私をお亡くなりになった夫君のようにお思いくださって、親しい者としてお扱いください」
いかにも口説くというふうではないけれど、熱心に宮様におっしゃる。
お背が高くご立派なのを拝見して、女房たちは亡き衛門の督様とお比べしている。
「宮様の婿君は優しく上品で愛嬌あふれる方でいらっしゃったけれど、こちらは男性的で華やかで、ふとしたときに『あぁ、お美しい』とため息が漏れるような方ですね」
ひそひそと話して、
「どうせなら新しい婿君としてこのお屋敷に出入りしてくださったらよいのに」
と言う女房もいるの。



