大将様はそのまま元太政大臣邸へお見舞いに行かれた。
亡き衛門の督様の弟君たちがたくさん集まっておられる。
大臣様はご自分でお会いになるつもりだったけれど、すぐにはお出ましになれない。
やっとご対面なさると、いつまでも若々しくお美しかったお顔はすっかりやせおとろえて、お髭などもぼさぼさでいらっしゃる。
親を亡くした子以上に、子を亡くした親はやつれるものだけれど、その見本のようなご様子なの。
大将様は思わず涙がこぼれて、恥ずかしがってお隠しになる。
<息子ととくに仲のよい人だった>
おふたりが仲睦まじく楽しそうにしておられた姿が大臣様のお目に浮かぶ。
涙が落ちて落ちて、お止めになることはできないまま、尽きない思い出話をなさる。
「先ほど女二の宮様のところにお見舞いに上がりまして、母御息所と少しお話しさせていただきました」
御息所が最後におっしゃったことを大将様は紙に書いておかれた。
「涙で目もろくに見えなくて」
大臣様は眉を寄せてご覧になる。
本来は快活で誇り高い、堂々とした方なのに、まったくそんな雰囲気はなくなってしまわれた。
親の立場で嘆かれる御息所のお言葉に共感なさって、ますます涙がこぼれ落ちる。
「あなたの母君がお亡くなりになったのは、もう三十年近く昔ですか。悲しい秋だった。これ以上悲しいことは世の中にないだろうと思ったほどです。ただ、女性は世間との交流が少ないでしょう。とくに妹のような高貴な女性は、独身時代も結婚してからも、屋敷の中に大切に隠されているものです。だから世間の悲しみの声を聞いても私の心が刺激されることはなかった。それはひととおりの悲しみ方で、妹の人柄を知った上で悲しんでくれる声ではなかったからね。
しかし今回は違う。頼りなくはあったが内裏で働いていた息子だから、皆がよく知ってくれている。出世するにつれて人付き合いも増えていったのだろう、そういう人たちが息子の地位や働きぶりをふまえて惜しんでくれるのです。それで私はいっそう悲しくなる。
だけれど、今私が思うのは、息子が貴族社会でどれだけ評価されていたとか、役職や位階がどうだったとか、そんなことではない。ただ、なんてことのないありのままの姿の息子が恋しい。この恋しさはどうしたらよいのだろう」
空を見上げておっしゃる。
夕暮れ時の雲は灰色に霞んでいる。
年末からご子息のご病気が重くなって、お庭の木に目をお留めになる余裕などなかった。
すでに花が散ってしまったことに大臣様はやっとお気づきになる。
「親の私が子どものために喪服を着て泣いているなんて、順番がさかさまではないか」
「衛門の督もまさかこんなことになるとは思っておられなかったでしょう」
大将様がお慰めすると、同席なさっていたご次男が、
「兄君は花を咲かせる前に命を散らしてしまわれました」
とお泣きになる。
ご法要は盛大に行われる。
大将様のご正妻は亡き衛門の督様の妹君としてお手伝いなさる。
大将様ご自身も、お経を読む僧侶などを心をこめて手配なさった。
亡き衛門の督様の弟君たちがたくさん集まっておられる。
大臣様はご自分でお会いになるつもりだったけれど、すぐにはお出ましになれない。
やっとご対面なさると、いつまでも若々しくお美しかったお顔はすっかりやせおとろえて、お髭などもぼさぼさでいらっしゃる。
親を亡くした子以上に、子を亡くした親はやつれるものだけれど、その見本のようなご様子なの。
大将様は思わず涙がこぼれて、恥ずかしがってお隠しになる。
<息子ととくに仲のよい人だった>
おふたりが仲睦まじく楽しそうにしておられた姿が大臣様のお目に浮かぶ。
涙が落ちて落ちて、お止めになることはできないまま、尽きない思い出話をなさる。
「先ほど女二の宮様のところにお見舞いに上がりまして、母御息所と少しお話しさせていただきました」
御息所が最後におっしゃったことを大将様は紙に書いておかれた。
「涙で目もろくに見えなくて」
大臣様は眉を寄せてご覧になる。
本来は快活で誇り高い、堂々とした方なのに、まったくそんな雰囲気はなくなってしまわれた。
親の立場で嘆かれる御息所のお言葉に共感なさって、ますます涙がこぼれ落ちる。
「あなたの母君がお亡くなりになったのは、もう三十年近く昔ですか。悲しい秋だった。これ以上悲しいことは世の中にないだろうと思ったほどです。ただ、女性は世間との交流が少ないでしょう。とくに妹のような高貴な女性は、独身時代も結婚してからも、屋敷の中に大切に隠されているものです。だから世間の悲しみの声を聞いても私の心が刺激されることはなかった。それはひととおりの悲しみ方で、妹の人柄を知った上で悲しんでくれる声ではなかったからね。
しかし今回は違う。頼りなくはあったが内裏で働いていた息子だから、皆がよく知ってくれている。出世するにつれて人付き合いも増えていったのだろう、そういう人たちが息子の地位や働きぶりをふまえて惜しんでくれるのです。それで私はいっそう悲しくなる。
だけれど、今私が思うのは、息子が貴族社会でどれだけ評価されていたとか、役職や位階がどうだったとか、そんなことではない。ただ、なんてことのないありのままの姿の息子が恋しい。この恋しさはどうしたらよいのだろう」
空を見上げておっしゃる。
夕暮れ時の雲は灰色に霞んでいる。
年末からご子息のご病気が重くなって、お庭の木に目をお留めになる余裕などなかった。
すでに花が散ってしまったことに大臣様はやっとお気づきになる。
「親の私が子どものために喪服を着て泣いているなんて、順番がさかさまではないか」
「衛門の督もまさかこんなことになるとは思っておられなかったでしょう」
大将様がお慰めすると、同席なさっていたご次男が、
「兄君は花を咲かせる前に命を散らしてしまわれました」
とお泣きになる。
ご法要は盛大に行われる。
大将様のご正妻は亡き衛門の督様の妹君としてお手伝いなさる。
大将様ご自身も、お経を読む僧侶などを心をこめて手配なさった。



