「もう一度そなたに会って話したいこともあるのだが」
小侍従(こじじゅう)にもあいかわらずお手紙をお送りになる。
伯母(おば)衛門(えもん)(かみ)様の乳母(めのと)ということで、小侍従も幼いころから目をかけていただいていた。
身の程知らずなお振舞いは困るけれど、いよいよお亡くなりになってしまうと思うと悲しい。
泣きながら姫宮(ひめみや)様にお願いする。
「このお手紙のお返事だけは、どうか。もうご最期(さいご)でございましょうから」

「私だって今日にも死んでしまいそうなほど苦しいの。人が死にかけていること自体はかわいそうだと思うけれど、あの人だから特別にどうとは思わない。それよりもあの人に関わるのはもう嫌なのよ」
姫宮様はけっしてお返事をお書きにならない。
急にしっかりとものを考られるようになったわけではなく、ただ源氏(げんじ)(きみ)のお怒りを怖れていらっしゃる。
それでも無理にお(すす)めすると、いかにもお嫌そうにお書きになった。
夕闇(ゆうやみ)にまぎれて小侍従は衛門の督様にお届けにあがる。