大将様はあれからずっとお考えになっている。
<衛門の督は『源氏の君との間に小さな行き違いがあった』と言っていたが、あれほど悩み苦しんでいたのだから深刻な問題が起きていたのだろう。私になら打ち明けるつもりがあったにちがいない。死というのはその人の思いまでうやむやにしてしまう悲しいものだな>
衛門の督様の面影が忘れがたくて、ご兄弟よりも悲しんでおられるほどなの。
<衛門の督が亡くなる直前は六条の院も目まぐるしかった。女三の宮様が無事にご出産なさっておめでたいと思っていたら、ご体調を崩されて、そのままご出家までしてしまわれるとは。そこまでひどいご病気ではなかったようなのに、不思議なほどすっぱりと世間をお捨てになった。
不思議と言えば、父君が宮様のご出家をあっさりとお許しになったこともおかしい。紫の上のときとは大違いではないか。あちらが二条の院で療養なさっていたときは、相当お悪い状態の女君が泣く泣くお願いなさってもお許しにならなかった。一時はお亡くなりになったという噂も出るほどのご容態で、それからやっと形ばかりのご出家をお認めになったと聞くのに。
衛門の督はやはり、ずっと女三の宮様に恋い焦がれていたのだろうな。私にもそれが伝わってくるときがあった。普段は常に落ち着いていて、喜怒哀楽を表に出さない人だった。いかにも育ちのよい鷹揚で立派な人物だと思っていたが、内面には精神的な弱さを抱えていたのだ。それを隠すために、表面を取りつくろう振舞いを無意識のうちにしていたのかもしれない。
いくら宮様に憧れたとしても、叶わぬ恋に心を乱して死んでしまうのは愚かではないか。はっきりいえば無駄死にだし、知らぬ間に死の原因にされた宮様もお気の毒だ。そういう運命だったのかもしれないが、軽率でつまらないことをしてしまったものだ>
お考えになることはたくさんあるけれど、ご正妻の雲居の雁にもお話しにならない。
衛門の督様の妹君でいらっしゃるから、今さら非難するようなことはお聞かせしたくないのでしょうね。
衛門の督様がご遺言でお願いなさったことは、まだ源氏の君におっしゃっていない。
<申し上げたらどのようなお顔をなさるだろうか>
見てみたいような、なんとなく恐ろしいような気がなさる。
<衛門の督は『源氏の君との間に小さな行き違いがあった』と言っていたが、あれほど悩み苦しんでいたのだから深刻な問題が起きていたのだろう。私になら打ち明けるつもりがあったにちがいない。死というのはその人の思いまでうやむやにしてしまう悲しいものだな>
衛門の督様の面影が忘れがたくて、ご兄弟よりも悲しんでおられるほどなの。
<衛門の督が亡くなる直前は六条の院も目まぐるしかった。女三の宮様が無事にご出産なさっておめでたいと思っていたら、ご体調を崩されて、そのままご出家までしてしまわれるとは。そこまでひどいご病気ではなかったようなのに、不思議なほどすっぱりと世間をお捨てになった。
不思議と言えば、父君が宮様のご出家をあっさりとお許しになったこともおかしい。紫の上のときとは大違いではないか。あちらが二条の院で療養なさっていたときは、相当お悪い状態の女君が泣く泣くお願いなさってもお許しにならなかった。一時はお亡くなりになったという噂も出るほどのご容態で、それからやっと形ばかりのご出家をお認めになったと聞くのに。
衛門の督はやはり、ずっと女三の宮様に恋い焦がれていたのだろうな。私にもそれが伝わってくるときがあった。普段は常に落ち着いていて、喜怒哀楽を表に出さない人だった。いかにも育ちのよい鷹揚で立派な人物だと思っていたが、内面には精神的な弱さを抱えていたのだ。それを隠すために、表面を取りつくろう振舞いを無意識のうちにしていたのかもしれない。
いくら宮様に憧れたとしても、叶わぬ恋に心を乱して死んでしまうのは愚かではないか。はっきりいえば無駄死にだし、知らぬ間に死の原因にされた宮様もお気の毒だ。そういう運命だったのかもしれないが、軽率でつまらないことをしてしまったものだ>
お考えになることはたくさんあるけれど、ご正妻の雲居の雁にもお話しにならない。
衛門の督様の妹君でいらっしゃるから、今さら非難するようなことはお聞かせしたくないのでしょうね。
衛門の督様がご遺言でお願いなさったことは、まだ源氏の君におっしゃっていない。
<申し上げたらどのようなお顔をなさるだろうか>
見てみたいような、なんとなく恐ろしいような気がなさる。



