若君の乳母として、生まれのよい美しい人がたくさんお仕えしている。
源氏の君はお仕えするときの心構えなどをお教えになる。
「老い先短い私はどこまでご成長を見届けられるだろうか」
若君を乳母からお受け取りになると、若君は無邪気ににっこりなさる。
たくさんお乳を飲んでおられるのでしょうね、よく太って色白でおかわいらしい。
源氏の君がこれまで身近にご覧になった赤子といえば、ご子息の大将様よ。
二十年以上昔のあいまいなご記憶だけれど、この若君とは似ていらっしゃらないような気がなさる。
他には明石の女御様の皇子様たちがお生まれになったときのことを思い出される。
父君が帝であられるのだから、赤子のときから皇族らしい気高さは当然おありだった。
でも、特にすばらしくお美しかったわけではいらっしゃらない。
それに比べて若君は、上品さはもちろん、愛嬌があってにこにこなさっているところがとてもおかわいらしいの。
<気のせいだろうか、衛門の督によく似ている>
まなざしに今から穏やかな落ち着きがあって、油断して拝見するとこちらが恥ずかしくなるような赤子でいらっしゃる。
しっとりとした薫りが漂うようなお顔立ちなの。
赤子が誰に似ているかなんて、尼宮様にはよくお分かりにならない。
乳母や女房たちはもちろん知らないから、ただ源氏の君だけが悲しそうに見つめていらっしゃる。
<気の毒なことだったな。我が子を抱きもせず衛門の督は死んだのか>
世の中に確実なものなどないのだとお思いになると涙がほろほろこぼれるけれど、
<今日はお祝いの日なのだから、泣いては縁起が悪い>
とぬぐってお隠しになる。
「年を取ってから生まれた子どもというのは、よろこぶべきものであると同時に悲しいものでもある」
小さくつぶやかれる。
すでに四十八歳、もう先は長くないと覚悟なさっているから、若君のご将来がご心配なのよね。
<どうか父親に似ないでおくれ>
これはつぶやくこともできず、お胸のうちでお祈りになる。
<このなかに衛門の督を手引きした女房がいるはずだ。誰なのか分からないのが腹立たしい。さぞや私を馬鹿にしているだろう。しかし私が陰で笑われているだけならまだよい。事情が世間に知られたら、私よりも尼宮様の方が笑い者になってしまわれる。それはお気の毒だ>
世間に気づかれないよう、ご表情にもご態度にも十分注意して宮様と若君をお扱いになる。
無邪気にお声を上げてにこにこしていらっしゃる若君は、目元も口元もおかわいらしい。
<何も知らない人は気づくだろうか。とてもよく衛門の督に似ているけれど。元太政大臣も、そのご正妻も、『せめて孫がいてくれたら』とお嘆きらしい。両親に堂々と見せられない子どもだけを残して、あれほど自信家で立派だった人が恋のために死んでしまったのだ>
やはり衛門の督様の死を惜しんでお泣きになる。
身の程知らずな無礼者と切り捨てることはおできにならない。
源氏の君はお仕えするときの心構えなどをお教えになる。
「老い先短い私はどこまでご成長を見届けられるだろうか」
若君を乳母からお受け取りになると、若君は無邪気ににっこりなさる。
たくさんお乳を飲んでおられるのでしょうね、よく太って色白でおかわいらしい。
源氏の君がこれまで身近にご覧になった赤子といえば、ご子息の大将様よ。
二十年以上昔のあいまいなご記憶だけれど、この若君とは似ていらっしゃらないような気がなさる。
他には明石の女御様の皇子様たちがお生まれになったときのことを思い出される。
父君が帝であられるのだから、赤子のときから皇族らしい気高さは当然おありだった。
でも、特にすばらしくお美しかったわけではいらっしゃらない。
それに比べて若君は、上品さはもちろん、愛嬌があってにこにこなさっているところがとてもおかわいらしいの。
<気のせいだろうか、衛門の督によく似ている>
まなざしに今から穏やかな落ち着きがあって、油断して拝見するとこちらが恥ずかしくなるような赤子でいらっしゃる。
しっとりとした薫りが漂うようなお顔立ちなの。
赤子が誰に似ているかなんて、尼宮様にはよくお分かりにならない。
乳母や女房たちはもちろん知らないから、ただ源氏の君だけが悲しそうに見つめていらっしゃる。
<気の毒なことだったな。我が子を抱きもせず衛門の督は死んだのか>
世の中に確実なものなどないのだとお思いになると涙がほろほろこぼれるけれど、
<今日はお祝いの日なのだから、泣いては縁起が悪い>
とぬぐってお隠しになる。
「年を取ってから生まれた子どもというのは、よろこぶべきものであると同時に悲しいものでもある」
小さくつぶやかれる。
すでに四十八歳、もう先は長くないと覚悟なさっているから、若君のご将来がご心配なのよね。
<どうか父親に似ないでおくれ>
これはつぶやくこともできず、お胸のうちでお祈りになる。
<このなかに衛門の督を手引きした女房がいるはずだ。誰なのか分からないのが腹立たしい。さぞや私を馬鹿にしているだろう。しかし私が陰で笑われているだけならまだよい。事情が世間に知られたら、私よりも尼宮様の方が笑い者になってしまわれる。それはお気の毒だ>
世間に気づかれないよう、ご表情にもご態度にも十分注意して宮様と若君をお扱いになる。
無邪気にお声を上げてにこにこしていらっしゃる若君は、目元も口元もおかわいらしい。
<何も知らない人は気づくだろうか。とてもよく衛門の督に似ているけれど。元太政大臣も、そのご正妻も、『せめて孫がいてくれたら』とお嘆きらしい。両親に堂々と見せられない子どもだけを残して、あれほど自信家で立派だった人が恋のために死んでしまったのだ>
やはり衛門の督様の死を惜しんでお泣きになる。
身の程知らずな無礼者と切り捨てることはおできにならない。



