野いちご源氏物語 三五 柏木(かしわぎ)

(みや)様はまだ慣れない尼君(あまぎみ)の髪形を気にしておられる。
源氏(げんじ)(きみ)がお(のぞ)きになると、恥ずかしくてお顔をお(そむ)けになるの。
ご病気をしてますます小柄(こがら)になられた。
若々しいお(ぐし)僧侶(そうりょ)()しんで少し長めに切ったから、後ろ姿はこれまでとあまりお変わりがない。
肌着(はだぎ)は尼君らしい(すみ)色だけれど、上着は現代風の色をお召しだから、上品でかわいらしい少女のようでいらっしゃる。

「墨色の着物は悲しいものですね。目の前が真っ暗になるような気がします。尼君におなりになっても会えなくなったわけではないのだからと心を(なぐさ)めておりますが、どうしても涙はこぼれます。しかしこの世間体(せけんてい)の悪い涙も、もとをたどれば私があなた様に見捨てられるような、ふがいない年寄りだったせいでしょう。そう考えるといろいろと胸の痛いことも(くや)しいこともあります。戻れるものならあなたがご出家なさる前に戻りたいけれど。

入道(にゅうどう)上皇(じょうこう)様があなたの新しいお住まいを考えておくとおっしゃっていました。この六条(ろくじょう)(いん)を出ていってしまわれたら、ついにすっかり見捨てられてしまったのだと、私は恥ずかしく悲しくなるでしょう。せめてご同情だけはなさってくださいね」

尼宮様はぼんやりとお答えになる。
「出家した人は同情の気持ちなど持ってはいけないと聞きました。それに私は生まれつきそういう気持ちがよく分かりませんから、どちらにせよあなたにご同情することはできませんでしょう」
()()いのないことをおっしゃる。他の男にはご同情なさったのでしょう。だからこんなことに」
そこでお止めになって、ご機嫌よく乳母(めのと)()かれておいでの若君(わかぎみ)をご覧になる。