野いちご源氏物語 三五 柏木(かしわぎ)

大将(たいしょう)様もご親友のご病気を(なげ)いて、しょっちゅうお見舞いにいらっしゃっている。
昇進(しょうしん)のお祝いにも真っ先にお越しになった。
起き上がることもできないようなご容態(ようだい)だから、格好も整えずお会いするわけにはと遠慮なさる。
でも、今お会いになっておかなければ、もう会えないかもしれないの。
恐縮(きょうしゅく)ですが病室にお入りください。乱れた姿でおりますことはどうか大目に見ていただければ」
と、(まくら)もとにお招きになった。

幼いころから何の遠慮もなく仲良くしていらっしゃった従兄弟(いとこ)同士なので、お互いに恋しく思うお気持ちは親兄弟にも(おと)らない。
「どうしてそんなに弱々しくなってしまわれたのです。今日はご昇進をおよろこびになって、少しはご体調もよくなられたかと思っておりましたのに」
ついたてをずらしてご病床(びょうしょう)のお顔をご覧になる。
面影(おもかげ)もないほどやせてしまったでしょう」
少し苦笑しながら起き上がろうとなさるけれど、とてもお苦しそうなの。

ご病室とはいえすっきりと美しく、よい香りのお(こう)()かれている。
こんなときのこんなところにも風流(ふうりゅう)を好まれるお人柄(ひとがら)がにじみ出るのね。
重病で寝たきりになると、(かみ)(ひげ)がぼさぼさになってむさくるしくなるのが普通だけれど、衛門(えもん)(かみ)様は逆よ。
やせて、お肌はますます白く上品におなりになった。
枕にもたれかかるようにして話されるご様子は、息も()()えでお苦しそうでいらっしゃる。