野いちご源氏物語 三五 柏木(かしわぎ)

もうご正妻(せいさい)に会えないことを(さと)った衛門(えもん)(かみ)様は、あらゆる人に(おんな)()(みや)様のことをお願いしておかれる。
宮様の(はは)御息所(みやすんどころ)は、もともと女二の宮様をご結婚させるおつもりはなかった。
皇女という(とうと)いご身分なのだから生涯(しょうがい)独身を(つらぬ)かれるべきだとお考えだった。
でも、入道(にゅうどう)上皇(じょうこう)様はご結婚をお許しになってしまわれたの。
太政(だいじょう)大臣(だいじん)様がご子息のために熱心にお願いなさったからよ。

そこまでして頂戴(ちょうだい)なさった宮様だということを、今さら衛門の督様は恐れ多く思われる。
上皇様も、
(おんな)(さん)の宮よりも女二の宮の方が、かえって将来も安心で誠実な後見(こうけん)役と結婚したようだ」
(おお)せになっていたことは、衛門の督様も人づてにお聞きになっている。
<それなのに申し訳ないことになってしまった>
宮様の今後が心配で、ご自身の母君(ははぎみ)にもよくよくお願いなさる。
「宮様をお残しして死ぬことが気がかりです。寿命(じゅみょう)は思いどおりになりませんから、宮様はご自分のご運の悪さをお(うら)みになるでしょう。お気の毒なことです。どうか母君も宮様にご同情なさって、気にかけてさしあげてください」

縁起(えんぎ)でもないことを。あなたが先に亡くなってしまったら、私がどれだけ生きていられるとお思いですか。きっとすぐに死んでしまいますよ。そのような先のお約束などできませんよ」
母君はただお泣きになるだけなので、弟君(おとうとぎみ)にくわしくお願いなさった。