野いちご源氏物語 三五 柏木(かしわぎ)

その日は何事(なにごと)もなく暮れたけれど、夜中、僧侶(そうりょ)がご病気回復のお祈りをしていると妖怪(ようかい)が現れた。
(ねら)いどおりだ。私を(むらさき)(うえ)の体から追い出せたことをよろこんでおられたのが(にく)らしくて、今度はさりげなく姫宮(ひめみや)様の方に移ってきていたのだよ。まんまと出家(しゅっけ)させてやった。さぁ、もう帰ろうか」
高らかに笑うとふっと消えた。

<なんとおぞましい。六条(ろくじょうの)御息所(みやすんどころ)の妖怪は二条(にじょう)(いん)から六条(ろくじょう)の院に来ていたのだ。姫宮様のご病気もご出家も、この妖怪が()りついていたせいだったのか>
あらためて宮様のご出家を(くや)しくお思いになる。
妖怪が去って、宮様のご体調は少しよくおなりになったけれど、まだ弱々しい。
女房(にょうぼう)たちは、この先華やかなことのない宮様の人生を悲しく思いながらも、お元気でいてさえくださればと祈っている。
源氏(げんじ)(きみ)もたくさんのお祈りをおさせなさる。