野いちご源氏物語 三五 柏木(かしわぎ)

姫宮(ひめみや)様は()()るように弱々しいままで、父君(ちちぎみ)の方をご覧にもなれなければ、お話もなさらない。
「恐れ多い行幸(みゆき)のお礼はまたあらためまして。今はこれが現実とも思われないほど心が乱れておりますので」
源氏(げんじ)(きみ)がご挨拶(あいさつ)なさる。

後見(こうけん)役のいない姫宮を見捨てて出家(しゅっけ)するわけにもいかずあなたにお(まか)せしましたが、本当はお断りなさりたかったのでしょうね。それでも私としてはこの数年安心していたのですよ。姫宮の今後ですが、にぎやかな六条(ろくじょう)(いん)で暮らしつづけるのは(あま)にはふさわしくないでしょう。かと言って山奥の寺に住まわせるのも心配ですから、私の方で考えてご相談しようと思います。これからは尼君(あまぎみ)としてご後見ください」

「いろいろとお()(づか)いいただきまして、かえって恥ずかしいほどでございます。心が乱れに乱れておりますので、(おお)せのありがたさもよく分からず混乱しておりまして」
非常に恐縮(きょうしゅく)していらっしゃる。