野いちご源氏物語 三五 柏木(かしわぎ)

何度もご説得なさっているうちに夜明け近くになった。
明るくなってからお寺にお帰りになっては人目(ひとめ)につくから、上皇(じょうこう)様は姫宮(ひめみや)様のお(ぐし)を切るご決断をなさった。
お美しい(さか)りの黒髪が短くなっていく。
出家(しゅっけ)儀式(ぎしき)の間、源氏(げんじ)(きみ)は悲しくて()しくてひどくお泣きになる。

上皇様もおつらい。
たくさんの姫宮様たちのなかで、(おんな)(さん)(みや)様を一番かわいがっておられたのだもの。
誰よりも幸せにしてあげたいと思っていらした宮様を、ご自分のお手で(あま)にするなんて、どれほどお(くや)しいことだったでしょうね。
「悲しいお姿だけれど、あなたのご希望どおりなのだから、きちんと養生(ようじょう)なさるのですよ。早く元気になってお(きょう)をお読みなさい」
優しくお声をおかけになると、夜が明けてしまう前にご出発なさる。