夜ももう姫宮様のところにお泊まりになることはない。
昼間に少しお顔をお見せになるだけなの。
「私も老い先短くなりましたから、近ごろはお経を読むなどして仏教の修行をしているのです。そうすると、若君がいてにぎやかなこちらはなんとなく居心地が悪いような気がして、それであまり来ることができずにいましたが、ご気分はいかがですか。少しはよくなられましたか。おかわいそうに」
ついたてのそばからお覗きになると、姫宮様はお頭をもたげてお返事なさる。
「もうこれ以上生きられる気がいたしません。出産で死ぬとあの世で重い罪になると申しますから、尼になりとう存じます。そのご利益でもうしばらく生きられるかもしれませんし、死んだとしても出家してからなら罪は軽くなりましょう」
いつもより大人びた口調でおっしゃる。
「嫌なことをおっしゃる。死ぬだなんて不吉ではありませんか。どうしてそこまで思いつめなさるのです。たしかにご出産は恐ろしかったでしょうが、必ずしも死んでしまうものではないのですよ」
お教えになりながらも、お心のなかではそれもよいかもしれないとお思いになる。
<尼君におなりになれば私もご同情しながらお世話できるだろう。今のままでは姫宮様はちぢこまってお暮らしになることになる。心苦しいが、かといってお許しすることもできないだろう。いつか態度に出てしまって世間の噂になれば、入道の上皇様は私が姫宮様を軽んじたとお思いになるはずだ。産後のご病気が非常に重いからという口実で、ご出家させてしまおうか>
とはいえ姫宮様はまだ二十代前半でいらっしゃる。
豊かなお髪をばっさりと切って尼にしてしまうのは、源氏の君にとっても惜しい。
「お気を強くお持ちなさい。ご病状はそれほどお悪くはありませんよ。危篤状態から持ち直した人だって近くにいるのです。神様も仏様も見守ってくださっていますよ」
励ましながらお薬湯をお勧めなさる。
青白くおやせになって、儚げに横たわっていらっしゃるお姿が可憐でおかわいらしい。
<どれほどの過ちを犯したとしてもこちらが折れて許してしまいそうなご様子だ>
とご覧になる。
昼間に少しお顔をお見せになるだけなの。
「私も老い先短くなりましたから、近ごろはお経を読むなどして仏教の修行をしているのです。そうすると、若君がいてにぎやかなこちらはなんとなく居心地が悪いような気がして、それであまり来ることができずにいましたが、ご気分はいかがですか。少しはよくなられましたか。おかわいそうに」
ついたてのそばからお覗きになると、姫宮様はお頭をもたげてお返事なさる。
「もうこれ以上生きられる気がいたしません。出産で死ぬとあの世で重い罪になると申しますから、尼になりとう存じます。そのご利益でもうしばらく生きられるかもしれませんし、死んだとしても出家してからなら罪は軽くなりましょう」
いつもより大人びた口調でおっしゃる。
「嫌なことをおっしゃる。死ぬだなんて不吉ではありませんか。どうしてそこまで思いつめなさるのです。たしかにご出産は恐ろしかったでしょうが、必ずしも死んでしまうものではないのですよ」
お教えになりながらも、お心のなかではそれもよいかもしれないとお思いになる。
<尼君におなりになれば私もご同情しながらお世話できるだろう。今のままでは姫宮様はちぢこまってお暮らしになることになる。心苦しいが、かといってお許しすることもできないだろう。いつか態度に出てしまって世間の噂になれば、入道の上皇様は私が姫宮様を軽んじたとお思いになるはずだ。産後のご病気が非常に重いからという口実で、ご出家させてしまおうか>
とはいえ姫宮様はまだ二十代前半でいらっしゃる。
豊かなお髪をばっさりと切って尼にしてしまうのは、源氏の君にとっても惜しい。
「お気を強くお持ちなさい。ご病状はそれほどお悪くはありませんよ。危篤状態から持ち直した人だって近くにいるのです。神様も仏様も見守ってくださっていますよ」
励ましながらお薬湯をお勧めなさる。
青白くおやせになって、儚げに横たわっていらっしゃるお姿が可憐でおかわいらしい。
<どれほどの過ちを犯したとしてもこちらが折れて許してしまいそうなご様子だ>
とご覧になる。



