年が明けても衛門(えもん)(かみ)様は寝込んでいらっしゃる。
ご両親が(なげ)かれるのを見ても、
<親より先に死ぬという(おや)不孝(ふこう)は申し訳ないが、だからといって()しい命でもない>
と人生を(あきら)めてしまわれている。

<どんなことでも人より立派でありたいと幼いころから思っていた。私ならできると思いあがっていたが、どうあがいても手に入れられないものはあるのだと思い知らされた。(おんな)(さん)(みや)様のご結婚相手が源氏(げんじ)(きみ)に決まったとき、幼い自信をすっかり失ったのだ。
それからというもの世の中が何もかもつまらなくなった。もう来世(らいせ)の幸せを祈ろうと出家(しゅっけ)を考えたが、両親の悲しみを想像するととても修行(しゅぎょう)に集中できそうにない。なんだかんだで出家できずにいるうちに、とうとう世間に顔向けできないほどの大事件を起こしてしまった。女三の宮様と関係を持ってしまった上、子まで()してしまったのだ。すべては自業(じごう)自得(じとく)で、他の誰のせいでもない。神様や仏様をお(うら)みできる話でもない。

誰だっていつかは死ぬのだから、こうして少しでも世間から惜しまれているうちに死んでしまいたい。私が死んだとお聞きになれば、姫宮(ひめみや)様もさすがにご同情くださるだろう。命を()けた恋の成果(せいか)だ。
生きながらえてしまったら、いつかきっと世間の(うわさ)になって、私も姫宮様も笑い者になる。それよりはさっさと死んで、私をお(にく)みになっている源氏の君からもお許しいただこう。死んでしまえばどんな(つみ)だって消えてなくなるのだ。これ以外のことで源氏の君に(そむ)いたことはないのだから、長年かわいがってくださったことを思い出して、少しは惜しんでくださるかもしれない>
病床(びょうしょう)でぼんやりと考えつづけていらっしゃる。