聖花学園~スパダリ姫はヒミツのヴァンパイアを溺愛中!~

 シルバーがロードライトガーネットのネックレスを盗むと予告した日まで約一週間。
 どんな風に現れるのか、どうやって盗むのかもわからないから、事前に準備できることは少ない。
 とりあえず展示場所の防犯カメラを増やすって学園長は言っていたし、警察に学園周辺のパトロールは頼むとのことだった。
 学園長自身も、当日は監視カメラをチェックするってことだったから、私は基本学園内のパトロールをするってことに決まった。
 となると、やっぱり事前の準備はあまりない。パトロールする場所やチェックするべきところを確認するくらいなんだけれど、学園内は勝手知ったるって状態だし、改めて確認するほどじゃない。

 あ、でもシルバーの身体能力を考えるといきなり三階の窓から侵入ってこともあり得るよね? その場合のシミュレーションもしておこうかな?
 放課後、部活の前にチェックしておこう。
 学食で昼食を取りながらそんなことを考えていると、真向かいに座ってカレーを食べている黒羽さんが私をじっと見ていることに気づいた。

「ん? なに?」

 聞くと、黒羽さんはハッとして一度私から視線をそらす。

「あ、ごめんなさい、つい見つめちゃってた。……その、食べ方がキレイだなと思って」
「え? そ、そう? ありがとう」

 気恥ずかしそうにほめられて、なんだか照れちゃう。

「食事の作法も大事だからって、フラワーは食事マナーも教えてもらうんだ」

 そうしてみんなの目もある学食でキレイに食べることで、手本となるようにって。
 小学生の頃まではせいぜいテーブルにひじをつくなとか、基本的な箸のマナーくらいしか気にしたことはなかったけれど、この一年教えられたように食べることを意識してたら結構様になっていたみたい。
 だから、実はほめられて結構うれしい。
 私の答えに、黒羽さんは視線を戻して「ああ」と納得の声を上げた。

「もしかして、それでフラワーだけ別メニューなの?」
「うん、そうなの」

 うなずいて、私は目の前に置かれているお膳を見る。
 洋食のときもあるけれど今日のお膳は焼き魚がメインの和食だ。他にも揚げ物にエビとかぼちゃの天ぷら、汁物にわかめのお味噌汁、香の物にきゅうりの漬物、小鉢にはひじきの煮つけ、あとデザートの水物に水まんじゅうもついている。
 学食は麺類や丼もののシンプルなメニューばかりだから、ここまでしっかりしたメニューは本当に特別。
 じつは私、この昼食が無料で食べられるってことにつられてフラワーになることを承諾しちゃったんだよね。
 フラワーとしてのイメージがあるから誰にも言えないけれど。

「フラワーだけ特別メニューかぁ……すごいし美味しそうだけれど、メニュー選べるわけじゃないしマナーも気をつけなきゃいけないなんて……私にはムリ」

 私のお膳を見ていた黒羽さんは、はじめうらやましそうだったけれど後半は完全に遠慮したいって様子になる。
 実際フラワーだけ特別メニューでも、生徒から不公平だ、なんて声が上がらないのはそういう理由らしい。

「あはは、他の友だちにもまったく同じこと言われたよ」

 笑いながら返して、私はサクサクの天ぷらを口に運んだ。
 うん、衣が脂っこくなくて軽い。
 食べ方は気をつけなきゃならないけれど、美味しいし、やっぱり私は大満足かな。
 と、改めてフラワーになった恩恵をよろこんでいると、黒羽さんがスプーンの手を止めて「そういえば」と問いかけてきた。

「昨日の放課後、学園長からのお話ってなんだったの?」
「え? ああ、あれは……」

 やっぱり、学園長から直接お話があるって言われたら内容が気になるよね? とはいえ、シルバーから予告状が届いたことや私が学園長の【お願い】を聞いていることはヒミツだし。

「……ちょっと、お仕事を頼まれちゃったの」

 あくまで本当のことを。でもかなりあいまいに答える。

「ふーん……それもフラワーのお仕事?」
「うん、そんなところ」

 今度はハッキリとウソをついちゃった。学園長からの【お願い】はフラワーとは関係ないから。
 でもあまり追求されると困るからね。申し訳ないけれど、ここはウソをつき通させてもらおう。

「フラワーって、色々と大変なんだね」

 最後にそう感想をこぼした黒羽さんは、カレーを食べるのを再開させてこの話題を終わらせた。
 大きく口を開けて美味しそうに食べる黒羽さんを見ながら、私も彼女に聞いてみたいことがあったんだと思い出す。
 けれど、周りに人がいるところで聞く内容じゃないしな……と思い直して、口をつぐんだ。

***

 放課後、私は部活へ向かう前に三階の廊下を歩いていた。
 もちろん、ネックレスの警護のシミュレーションをするため。
 シルバーが三階の窓から侵入した場合、どういうルートでネックレスの展示場所まで来るのか。そのルートに、隠れられる場所がないかとかの確認。
 勝手知ったる、とはいえ隠れられそうな場所までは把握していないからね。
 本当にシルバーが来るかどうかもわからないけれど、警護するって決めたからにはできることはやっておかないと!
 廊下を歩く他の生徒に不審がられないよう確認しながら、ネックレスのある学園長室前へ向かう。
 一通りチェックし終えてネックレスの展示場所まで来ると、ちょうどネックレスを見上げている生徒がいた。
 見知ったその姿に、私は身だしなみを整えてから声をかける。

「伊月先輩、ごきげんよう」
「え? あら、夏音さん。ごきげんよう」

 私の声に、焦げ茶の長い髪をサラリと揺らして振り返ったのは、三年生のフラワーである伊月咲良先輩だ。
 称号は【ヒメユリ】。強いから美しいとか、誇りっていう花言葉のある花。
 身長も高めで、凛とした雰囲気のある美人な先輩には本当にピッタリな花なんだよね。
 伊月先輩は素顔もキレイだけれど、いつもつけている眼鏡も知的でカッコよくて、彼女の近くにいるとドキドキしちゃうっていう生徒が多いんだ。
 かくいう私も、伊月先輩と同じフラワーということもあって、色んな意味で緊張しちゃう。
 緊張しすぎて噛まないように、私は丁寧に問いかけた。

「珍しいですね、伊月先輩がネックレスを見に来るなんて」
「そうかしら? でも、確かに三年になってからは初めてだったかもしれないわね」

 そう言ってほほ笑んだ伊月先輩は、顔をネックレスへと戻して少し不安そうに眉を寄せる。

「ちょっと、このネックレスが狙われているって聞いて……心配になったの」

 どうして狙われていることを知ってるの? シルバーの予告状のことは知らないはずだよね?
 と一瞬警戒したけれど、そういえば私もはじめは佐々木部長のウワサ話で知ったんだったと思い直した。
 伊月先輩も佐々木部長あたりから聞いたのかな?

「シルバーのウワサですよね? でも怪盗シルバーって、盗んだものをすぐ返すらしいじゃないですか。万が一盗まれても、戻ってくるんじゃないですか?」

 本当にちゃんと戻ってくるかはその時にならないとわからないけれど、伊月先輩の不安が解消できるようにと話す。
 すると伊月先輩は「あ、そうなのね」と私に向かってぎこちなくほほ笑んだ。
 口にしたのは納得の言葉だったけれど、その表情からは安心したって感じは見て取れない。
 いまだ不安そうにネックレスを見上げる伊月先輩に、私はどう声をかけていいかわからず、しばらく彼女を見つめていた。