「さてと、これで一応迷いやすいところの案内は終えたけれど……どこかほかに見てみたい場所とかある?」
部室棟から普通教室棟へ戻って来てから、私は黒羽さんを見て聞いた。
せっかくだし、他にもわからない場所とかあったら案内しておこうかなと思って。
口元に指を当てて少し考え込んだ黒羽さんは、「見てみたい場所というか……」とひかえめに話し始めた。
「さっきの子も言っていたロイヤルフラワーのことなんだけれど。授与されるっていう綺麗なガーネットのネックレスってのが気になるかな? 私、宝石とか見るの好きなの」
「そうなの? じゃあ見てみる?」
ロイヤルフラワーのネックレスの話を聞いた生徒は、必ずといっていいほど見てみたいって言うから、黒羽さんの気持ちはわかる。
宝石を見るのが好きだっていうなら、なおさらだろう。
だから気軽に見に行こうか? って答えたんだけれど、彼女はすごくビックリして眼鏡の奥の目を真ん丸に見開く。
薄い色合いの目がよく見えた。
「え!? 見られるの!?」
おどろく黒羽さんに、私は「もちろん」とうなずく。
「ロイヤルフラワーのネックレスは、この聖花学園の象徴みたいなものだからね。学園長室の近くに誰でも見られるように飾られているよ」
笑顔で答えた私は、行こうか、とまた黒羽さんの手を引いて今度は学園長室へと足を向けた。
普通教室棟の三階にある学園長室。
その扉の横に部活の表彰楯やトロフィーが飾られている低めのショーケースがあって、そのさら上に監視カメラなども設置されている鍵付きのケースがある。
この中に入っているものこそ、ロイヤルフラワーのみが身につけられるというロードライトガーネットのネックレスだ。
聞いた話ではこのケース、防弾ガラスでできているらしくて、かなり厳重に守られてる。
その状態を見て黒羽さんはちょっと脱力ぎみにつぶやいた。
「まあ、誰でも見られると言っても、そりゃあ厳重に保管されているわよね……」
当然か、と笑った黒羽さんは、スッと笑みを消して真剣な顔で飾られているロードライトガーネットのネックレスを見上げる。
他の子たちみたいに「綺麗」と目を輝かせるわけでもなく、真っ直ぐその石に集中している様子に、私は静かに息を呑んだ。
上を向いたことで黒羽さんの顔がよく見える。
肌が白くて整っている顔立ち。ガーネットを見つめる彼女の横顔は、とても美しくて……。
その美しさについ見とれた私は、手の力が緩んで自然とつないでいた手を離した。
黒羽さんは手が離れたことにも気づかない様子で、じっと深紅のきらめきを見つめている。
和名で薔薇柘榴石と呼ばれる赤い宝石。それを映している薄い色合いの目に、真逆の色の青い虹彩が入ったのが見えた。
えっ? と、なにか既視感を覚えたところで、とつぜん学園長室のドアが開く。
「なんてことだ!」
叫びながら学園長室から出てきた渋い男性におどろいて、私は覚えたばかりの既視感を吹き飛ばした。
「学園長? どうしたんですか?」
私が声をかけると、上品なスーツに身を包んだスラッとした学園長がこっちを見て軽くコホン、と咳払いをする。
「ああ、フラワーの日向さんではないですか。ちょうどよかった、君に用事があったのだよ」
紳士的な雰囲気の学園長は、ドアを開けたときのあわてた様子を消してキリッとした笑みを浮かべた。
学園長は四十代のおじさんなんだけれど、この笑顔で一部の生徒たちからは人気があるみたい。ダンディだとか、イケオジだとか。
私としては『おじさん』としか思えないんだけれどね。
「用事ですか?」
私は聞き返しながらすぐにすむ話なのかな? とちょっと悩む。
今は黒羽さんの学園案内の最中だから。彼女を途中で放っておくわけにはいかないもん。
長引きそうなら、黒羽さんを教室に帰してからにしようかな、と考えていたんだけれど……。
「あ、じゃあ私は先に教室へ戻って帰るね」
黒羽さんの方が気をつかって先に帰ると言ってくれた。
「そう? ごめんね」
「ううん。じゃあ、また明日」
「うん、また明日ね!」
お互い手を振りあってから、黒羽さんはくるりと身をひるがえして去って行った。
初めは少しよそよそしかったけれど、今日一日でかなり打ち解けてくれたかな?
なんて思いながら彼女の背中を見つめていると、学園長が声をかけてきた。
「すまないね、友だちとの時間を奪ってしまって。でも、急ぎの要件なんだ」
「いえ、学園の案内はほぼ終わっていたので、大丈夫です」
申し訳なさそうな学園長の言葉に、問題ないと返す。
黒羽さんをちゃんと教室まで送り届けられなかったのは心残りだけれど、普通教室棟の中ならそうそう迷うこともないだろうし、多分大丈夫。
「そうかい? じゃあ、中に入ってくれ。大事な……依頼があるんだ」
私をうながした学園長は、最後の言葉だけ声量を落とす。
その『依頼』という言葉に、私はスッと意識を切り替えた。
部室棟から普通教室棟へ戻って来てから、私は黒羽さんを見て聞いた。
せっかくだし、他にもわからない場所とかあったら案内しておこうかなと思って。
口元に指を当てて少し考え込んだ黒羽さんは、「見てみたい場所というか……」とひかえめに話し始めた。
「さっきの子も言っていたロイヤルフラワーのことなんだけれど。授与されるっていう綺麗なガーネットのネックレスってのが気になるかな? 私、宝石とか見るの好きなの」
「そうなの? じゃあ見てみる?」
ロイヤルフラワーのネックレスの話を聞いた生徒は、必ずといっていいほど見てみたいって言うから、黒羽さんの気持ちはわかる。
宝石を見るのが好きだっていうなら、なおさらだろう。
だから気軽に見に行こうか? って答えたんだけれど、彼女はすごくビックリして眼鏡の奥の目を真ん丸に見開く。
薄い色合いの目がよく見えた。
「え!? 見られるの!?」
おどろく黒羽さんに、私は「もちろん」とうなずく。
「ロイヤルフラワーのネックレスは、この聖花学園の象徴みたいなものだからね。学園長室の近くに誰でも見られるように飾られているよ」
笑顔で答えた私は、行こうか、とまた黒羽さんの手を引いて今度は学園長室へと足を向けた。
普通教室棟の三階にある学園長室。
その扉の横に部活の表彰楯やトロフィーが飾られている低めのショーケースがあって、そのさら上に監視カメラなども設置されている鍵付きのケースがある。
この中に入っているものこそ、ロイヤルフラワーのみが身につけられるというロードライトガーネットのネックレスだ。
聞いた話ではこのケース、防弾ガラスでできているらしくて、かなり厳重に守られてる。
その状態を見て黒羽さんはちょっと脱力ぎみにつぶやいた。
「まあ、誰でも見られると言っても、そりゃあ厳重に保管されているわよね……」
当然か、と笑った黒羽さんは、スッと笑みを消して真剣な顔で飾られているロードライトガーネットのネックレスを見上げる。
他の子たちみたいに「綺麗」と目を輝かせるわけでもなく、真っ直ぐその石に集中している様子に、私は静かに息を呑んだ。
上を向いたことで黒羽さんの顔がよく見える。
肌が白くて整っている顔立ち。ガーネットを見つめる彼女の横顔は、とても美しくて……。
その美しさについ見とれた私は、手の力が緩んで自然とつないでいた手を離した。
黒羽さんは手が離れたことにも気づかない様子で、じっと深紅のきらめきを見つめている。
和名で薔薇柘榴石と呼ばれる赤い宝石。それを映している薄い色合いの目に、真逆の色の青い虹彩が入ったのが見えた。
えっ? と、なにか既視感を覚えたところで、とつぜん学園長室のドアが開く。
「なんてことだ!」
叫びながら学園長室から出てきた渋い男性におどろいて、私は覚えたばかりの既視感を吹き飛ばした。
「学園長? どうしたんですか?」
私が声をかけると、上品なスーツに身を包んだスラッとした学園長がこっちを見て軽くコホン、と咳払いをする。
「ああ、フラワーの日向さんではないですか。ちょうどよかった、君に用事があったのだよ」
紳士的な雰囲気の学園長は、ドアを開けたときのあわてた様子を消してキリッとした笑みを浮かべた。
学園長は四十代のおじさんなんだけれど、この笑顔で一部の生徒たちからは人気があるみたい。ダンディだとか、イケオジだとか。
私としては『おじさん』としか思えないんだけれどね。
「用事ですか?」
私は聞き返しながらすぐにすむ話なのかな? とちょっと悩む。
今は黒羽さんの学園案内の最中だから。彼女を途中で放っておくわけにはいかないもん。
長引きそうなら、黒羽さんを教室に帰してからにしようかな、と考えていたんだけれど……。
「あ、じゃあ私は先に教室へ戻って帰るね」
黒羽さんの方が気をつかって先に帰ると言ってくれた。
「そう? ごめんね」
「ううん。じゃあ、また明日」
「うん、また明日ね!」
お互い手を振りあってから、黒羽さんはくるりと身をひるがえして去って行った。
初めは少しよそよそしかったけれど、今日一日でかなり打ち解けてくれたかな?
なんて思いながら彼女の背中を見つめていると、学園長が声をかけてきた。
「すまないね、友だちとの時間を奪ってしまって。でも、急ぎの要件なんだ」
「いえ、学園の案内はほぼ終わっていたので、大丈夫です」
申し訳なさそうな学園長の言葉に、問題ないと返す。
黒羽さんをちゃんと教室まで送り届けられなかったのは心残りだけれど、普通教室棟の中ならそうそう迷うこともないだろうし、多分大丈夫。
「そうかい? じゃあ、中に入ってくれ。大事な……依頼があるんだ」
私をうながした学園長は、最後の言葉だけ声量を落とす。
その『依頼』という言葉に、私はスッと意識を切り替えた。



