黒羽さんにわからないことを教えているうちに今日の授業は終わり、帰りの会も終わると私は立花先生に呼び止められた。
「日向さん、悪いんだけど黒羽さんに特別教室や部室棟を案内してくれない?」
その辺りは初めての人は迷いやすいから、ちゃんと案内して欲しいって頼まれる。
放課後はいつもだったら部活なんだけれど、空手部の顧問でもある立花先生に頼まれたからには断れないよね。
それに実際、この学園ってちょっと入り組んだ造りになっていて、一年生とか一度は絶対に迷ちゃうもの。立花先生が心配するのはもっともだよ。
私はこころよくうなずいて、黒羽さんに声をかけて学園の案内を始めた。
まずは教室から近い特別教室を案内して、その後で部室棟へ向かって行ったんだけど、その途中で黒羽さんがおどろいたように声を上げる。
「え? さっき階段を上がったのにまた下がるの?」
「うん、校舎内だとこのルートじゃないと部室棟に行けないんだ。道をまちがえやすいから、一度外に出て部室棟の入口から入った方が早いっていう人もいるよ」
「ここまでくる廊下も入り組んでたし……まるで迷路ね」
「あはは、確かにそうかも」
校舎の構造に、もはやあきれた様子の黒羽さんへ笑って答えながら、私は部室棟の説明を始める。
「部室棟を利用している部は人気のある部で、華道部や茶道部、弓道部があるかな。吹奏楽も人気だけれど、そっちは音楽室を使うから」
話しながら歩いていくと、まさに部活へ向かう生徒たちとすれちがう。
「ごきげんよう、ヒマワリ様」
「ヒマワリ様が部室棟に来るなんて、珍しい。今日はラッキーだわ」
あいさつを受けたり、少し遠くから私のことを話す声が聞こえてくる。
フラワーは基本的に人気者扱いだから、どこに行っても声をかけられるんだよね。
遠巻きにしている子たちにの方にも笑顔を向けると、「きゃあ!」と黄色い声が聞こえてくる。
すると、黒羽さんがひかえめにつぶやいた。
「……フラワーって人気者なんですね?」
見ると、どこか居心地悪そうにしている様子。
私と一緒にいるせいで注目を浴びちゃっているからかな?
「ごめんね、目立つの苦手だった?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……なんていうか、近くにいると釣り合ってないっていうか……」
もごもごと口の中で話す黒羽さんの様子にピンときた私は、周囲をもっと注意深く見てみる。
すると、黒羽さんの方を見てヒソヒソ囁き合っている子たちの姿が見えた。
集中して聞き耳を立てると、「地味」とか「釣り合わない」って言葉が聞こえてきたから、黒羽さんはそういう言葉を聞いて委縮しちゃってるんだなって理解する。
周囲との波風を立てたくないなら、気づかなかったふりをしてそっと黒羽さんと距離を取った方がいいんだろうけど……私、ああいうのキライなんだよね。人を見た目とかでジャッジしたり比べたりするの。
競争ならいいんだけど、人を貶めるようなことを言うのはちがうって思う。
私は少し考えて、黒羽さんに右手を差し出した。
「私は今転入生の黒羽さんに学園を案内しているだけだよ? 釣り合うとか釣り合わないとか、関係ないよ」
周りにも聞こえるように、少し大きな声で言う。
釣り合わないとか言っている子たちは的外れなことを言っているんだって、わかるように。
そして、黒羽さんに向けて続けた。
「他人の評価なんてちょっとしたことですぐ変わるんだから、いちいち気にするのは損だよ」
これは、私もフラワーになってから実感したこと。
フラワーになってから、ちょっとでも悪い印象になることをすれば相応しくないんじゃないかって言われる。それなのに、テストで上位になったり部活を頑張っているってだけで、すぐに『ヒマワリ様素敵!』って変わっちゃう。
半年たったころには、周りのちょっとした評価は気にするだけ損だなって理解したんだ。
「気にするのは損……?」
ぽかんとした様子で私の言葉を繰り返す黒羽さんに、私は肯定するようにニッコリと笑って彼女の手を取る。
損なことに時間を使う必要ないもん。さっさと部室棟の案内を終えちゃおう!
「まずは弓道部に行こう」
「あっ、手……」
黒羽さんの手を引いて先を進んだ私に、彼女は戸惑いながらついてくる。
いきなり手をつないでおどろかせちゃったかな?
でも、黒羽さんこうでもしないと私と距離を取りそうだったんだもん。
周りの評価を気にして距離を取られるのは悲しいからね。
それでもイヤそうなら少し進んだら手を離そうって思ってた。
でも、黒羽さんはつないだ手を握り返してきたから、なんとなくそのまま部室棟の案内を続けたんだ。
その手が離されたのは、弓道部を見終えて華道部の部室に近づいたときだった。
華道部の様子を黒羽さんに見せて、簡単にどういうことをしているのか説明しているとき、少しいやみったらしい声が私を呼んだの。
「あらまあ! 日向先輩が華道部に来てくださるなんて、珍しいこともあるのですね! まさかとは思いますが、敵情視察ですか?」
声の方を見ると、ちょうど華道部の部室である和室に入るところだったらしい一年生がいた。
栗色の髪はロングボブより少し長いくらいで、ゆるく波打っている。目の色も薄茶と明るめの色で、見た目だけなら西洋人形みたいにかわいらしい華やかな子。
そんなかわいい顔に少し意地の悪い笑みを浮かべた彼女に、私はあきれのため息を吐いた。
「敵情視察って……私は転入生に学園の案内をしているだけだよ、美藤さん」
私と同じフラワーである美藤麗衣愛さん。
周囲からは残念フラワーと密かに呼ばれている一年生だ。
「転入生? ああ、その方ですか?」
私の言葉に、美藤さんは軽く見開いた目を黒羽さんへ向ける。丸くてくるんとした目が愛らしい。
このちょっとしたしぐさからもかわいらしさが溢れているから、美藤さんは『愛嬌』の花言葉があるトレニアの称号を貰っているんだ。
トレニアってあまり聞いたことがないから調べたら、小ぶりで丸い花びらがとてもかわいい花だった。
見た目だけなら、美藤さんにとてもピッタリな花だと思う。
美藤さんは、黒羽さんへそれこそ愛嬌のある笑みを浮かべて、自己紹介――というか、自己アピールをした。
「ようこそ、聖花学園へ。私は美藤麗衣愛といいます。一年生ですけれど、近いうちロイヤルフラワーとして学園の代表を務める予定ですので、以後お見知りおきを」
後半を特に強い語調で話す美藤さんに、私はまたしてもあきれのため息を吐く。
「美藤さん、決まっていないことをさも当然のように言うのはどうかと思うよ?」
ロイヤルフラワーはまだ決まっていない。
なのに美藤さんは相当自信があるのか、会うたびに牽制されるし『ロイヤルフラワーになるのはあたしです!』と宣言してくる。
私は正直どっちでもいいとは思っているけれど、入学したばかりで学園にちゃんと慣れていない美藤さんが学園の代表として色んな仕事をこなすのは、すごく大変だと思うんだよね。
去年のロイヤルフラワーである伊月先輩の様子をはたで見ていても、かなり大変そうだったし。
その大変さをわかっているのかいないのか、美藤さんは私の言葉を重く受け止めず、まるで信じられないというようにおどろいていた。
「日向先輩、何を言っているのです? あたしがなるに決まっているじゃないですか!」
あああ……
いつものことだけれど、人のアドバイスを受け入れる気なんて欠片もない彼女の様子に、私は思わず頭を抱えたくなる。
悪い子ではないと思うんだけれど、自分に自信がありすぎてたまに人の話を聞かないんだ。
「いや、だからね……」
とりあえず、学年の代表でもあるフラワーが、不確定事項を口にするようなことはしちゃだめだってことだけは伝えないと。
そう思って言葉を続けようとしたけれど、美藤さんは自分がよくないことを言っているという自覚がないからか、いかに自分がロイヤルフラワーに相応しいかを語りはじめる。
「もともとの家柄もフラワーの中であたしが一番いいですし、相応の教養も身に着けています!」
「だからそういうことじゃなくて……」
フラワーやロイヤルフラワーになるには、家柄なんてまったく関係ない。
大体、家柄が関係あるなら私がフラワーになれているわけがないし。
なんとか言いたいことを伝えようとするけれど、こうなった美藤さんはなかなか止まってくれない。
私の話を聞こうともせず、「それに見てください!」と私と黒羽さんの間を通るように和室に入って行く。
そのため、なんとなくそれまでつないでいた黒羽さんの手が自然と離れた。
あ、と……なんとなく寂しさを感じていると、それを打ち消すように美藤さんの嬉々とした声が華道部の部室に響く。
「ほら、この独創的な生け花! あたしが生けたのですけれど、この花のようにあたしが学園に新しい風を起こして見せますわ!」
「……」
「……独創的?」
美藤さんが指した花器に生けられた花を見て、私は沈黙し、隣の黒羽さんからは控えめな疑問の声が聞こえた。
季節の花が使われているのは問題ないと思う。
ただ、生け方がなんとも前衛的過ぎて不格好にすら見える。茎がまっすぐの花をナナメにしたり、ふつうは添え物のカスミソウを森のようにもっさりと乗せていたり。
ちょっと、私にはよさがわからないよ……。
何も言わない私を見て、美藤さんは納得したと思ったのか満足そうに胸を張っていた。
この様子が、周囲から残念フラワーと呼ばれている所以なんだ。
でもまあ、それも含めてかわいがられている感じもあるんだよね。
憎めないっていうか。
この生け花に関しても、一部にはかなり人気があるみたい。
「さすがトレニア様」
「革新的な考えを持っているのね」
と支持している声が今も聞こえてくるもの。
「ま、まあ。どうなるにせよ、決まる前に言いふらすのは品がいいとは言えないと思うから……ほどほどにね」
何を言っても伝わりそうにないと思った私は、最後にそう言って黒羽さんの手をまた握り、早々にその場を後にする。
今度は黒羽さんも戸惑うことなく手を引かれてくれたから、すんなり歩き出すことができた。
部室棟を出る間に私たちを見て、またヒソヒソ何か言っている子もいたけれど、それこそ気にするだけ損だし。
とにかくこれ以上美藤さんに絡まれたくなくて、部室棟を足早に抜けていった。
「日向さん、悪いんだけど黒羽さんに特別教室や部室棟を案内してくれない?」
その辺りは初めての人は迷いやすいから、ちゃんと案内して欲しいって頼まれる。
放課後はいつもだったら部活なんだけれど、空手部の顧問でもある立花先生に頼まれたからには断れないよね。
それに実際、この学園ってちょっと入り組んだ造りになっていて、一年生とか一度は絶対に迷ちゃうもの。立花先生が心配するのはもっともだよ。
私はこころよくうなずいて、黒羽さんに声をかけて学園の案内を始めた。
まずは教室から近い特別教室を案内して、その後で部室棟へ向かって行ったんだけど、その途中で黒羽さんがおどろいたように声を上げる。
「え? さっき階段を上がったのにまた下がるの?」
「うん、校舎内だとこのルートじゃないと部室棟に行けないんだ。道をまちがえやすいから、一度外に出て部室棟の入口から入った方が早いっていう人もいるよ」
「ここまでくる廊下も入り組んでたし……まるで迷路ね」
「あはは、確かにそうかも」
校舎の構造に、もはやあきれた様子の黒羽さんへ笑って答えながら、私は部室棟の説明を始める。
「部室棟を利用している部は人気のある部で、華道部や茶道部、弓道部があるかな。吹奏楽も人気だけれど、そっちは音楽室を使うから」
話しながら歩いていくと、まさに部活へ向かう生徒たちとすれちがう。
「ごきげんよう、ヒマワリ様」
「ヒマワリ様が部室棟に来るなんて、珍しい。今日はラッキーだわ」
あいさつを受けたり、少し遠くから私のことを話す声が聞こえてくる。
フラワーは基本的に人気者扱いだから、どこに行っても声をかけられるんだよね。
遠巻きにしている子たちにの方にも笑顔を向けると、「きゃあ!」と黄色い声が聞こえてくる。
すると、黒羽さんがひかえめにつぶやいた。
「……フラワーって人気者なんですね?」
見ると、どこか居心地悪そうにしている様子。
私と一緒にいるせいで注目を浴びちゃっているからかな?
「ごめんね、目立つの苦手だった?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……なんていうか、近くにいると釣り合ってないっていうか……」
もごもごと口の中で話す黒羽さんの様子にピンときた私は、周囲をもっと注意深く見てみる。
すると、黒羽さんの方を見てヒソヒソ囁き合っている子たちの姿が見えた。
集中して聞き耳を立てると、「地味」とか「釣り合わない」って言葉が聞こえてきたから、黒羽さんはそういう言葉を聞いて委縮しちゃってるんだなって理解する。
周囲との波風を立てたくないなら、気づかなかったふりをしてそっと黒羽さんと距離を取った方がいいんだろうけど……私、ああいうのキライなんだよね。人を見た目とかでジャッジしたり比べたりするの。
競争ならいいんだけど、人を貶めるようなことを言うのはちがうって思う。
私は少し考えて、黒羽さんに右手を差し出した。
「私は今転入生の黒羽さんに学園を案内しているだけだよ? 釣り合うとか釣り合わないとか、関係ないよ」
周りにも聞こえるように、少し大きな声で言う。
釣り合わないとか言っている子たちは的外れなことを言っているんだって、わかるように。
そして、黒羽さんに向けて続けた。
「他人の評価なんてちょっとしたことですぐ変わるんだから、いちいち気にするのは損だよ」
これは、私もフラワーになってから実感したこと。
フラワーになってから、ちょっとでも悪い印象になることをすれば相応しくないんじゃないかって言われる。それなのに、テストで上位になったり部活を頑張っているってだけで、すぐに『ヒマワリ様素敵!』って変わっちゃう。
半年たったころには、周りのちょっとした評価は気にするだけ損だなって理解したんだ。
「気にするのは損……?」
ぽかんとした様子で私の言葉を繰り返す黒羽さんに、私は肯定するようにニッコリと笑って彼女の手を取る。
損なことに時間を使う必要ないもん。さっさと部室棟の案内を終えちゃおう!
「まずは弓道部に行こう」
「あっ、手……」
黒羽さんの手を引いて先を進んだ私に、彼女は戸惑いながらついてくる。
いきなり手をつないでおどろかせちゃったかな?
でも、黒羽さんこうでもしないと私と距離を取りそうだったんだもん。
周りの評価を気にして距離を取られるのは悲しいからね。
それでもイヤそうなら少し進んだら手を離そうって思ってた。
でも、黒羽さんはつないだ手を握り返してきたから、なんとなくそのまま部室棟の案内を続けたんだ。
その手が離されたのは、弓道部を見終えて華道部の部室に近づいたときだった。
華道部の様子を黒羽さんに見せて、簡単にどういうことをしているのか説明しているとき、少しいやみったらしい声が私を呼んだの。
「あらまあ! 日向先輩が華道部に来てくださるなんて、珍しいこともあるのですね! まさかとは思いますが、敵情視察ですか?」
声の方を見ると、ちょうど華道部の部室である和室に入るところだったらしい一年生がいた。
栗色の髪はロングボブより少し長いくらいで、ゆるく波打っている。目の色も薄茶と明るめの色で、見た目だけなら西洋人形みたいにかわいらしい華やかな子。
そんなかわいい顔に少し意地の悪い笑みを浮かべた彼女に、私はあきれのため息を吐いた。
「敵情視察って……私は転入生に学園の案内をしているだけだよ、美藤さん」
私と同じフラワーである美藤麗衣愛さん。
周囲からは残念フラワーと密かに呼ばれている一年生だ。
「転入生? ああ、その方ですか?」
私の言葉に、美藤さんは軽く見開いた目を黒羽さんへ向ける。丸くてくるんとした目が愛らしい。
このちょっとしたしぐさからもかわいらしさが溢れているから、美藤さんは『愛嬌』の花言葉があるトレニアの称号を貰っているんだ。
トレニアってあまり聞いたことがないから調べたら、小ぶりで丸い花びらがとてもかわいい花だった。
見た目だけなら、美藤さんにとてもピッタリな花だと思う。
美藤さんは、黒羽さんへそれこそ愛嬌のある笑みを浮かべて、自己紹介――というか、自己アピールをした。
「ようこそ、聖花学園へ。私は美藤麗衣愛といいます。一年生ですけれど、近いうちロイヤルフラワーとして学園の代表を務める予定ですので、以後お見知りおきを」
後半を特に強い語調で話す美藤さんに、私はまたしてもあきれのため息を吐く。
「美藤さん、決まっていないことをさも当然のように言うのはどうかと思うよ?」
ロイヤルフラワーはまだ決まっていない。
なのに美藤さんは相当自信があるのか、会うたびに牽制されるし『ロイヤルフラワーになるのはあたしです!』と宣言してくる。
私は正直どっちでもいいとは思っているけれど、入学したばかりで学園にちゃんと慣れていない美藤さんが学園の代表として色んな仕事をこなすのは、すごく大変だと思うんだよね。
去年のロイヤルフラワーである伊月先輩の様子をはたで見ていても、かなり大変そうだったし。
その大変さをわかっているのかいないのか、美藤さんは私の言葉を重く受け止めず、まるで信じられないというようにおどろいていた。
「日向先輩、何を言っているのです? あたしがなるに決まっているじゃないですか!」
あああ……
いつものことだけれど、人のアドバイスを受け入れる気なんて欠片もない彼女の様子に、私は思わず頭を抱えたくなる。
悪い子ではないと思うんだけれど、自分に自信がありすぎてたまに人の話を聞かないんだ。
「いや、だからね……」
とりあえず、学年の代表でもあるフラワーが、不確定事項を口にするようなことはしちゃだめだってことだけは伝えないと。
そう思って言葉を続けようとしたけれど、美藤さんは自分がよくないことを言っているという自覚がないからか、いかに自分がロイヤルフラワーに相応しいかを語りはじめる。
「もともとの家柄もフラワーの中であたしが一番いいですし、相応の教養も身に着けています!」
「だからそういうことじゃなくて……」
フラワーやロイヤルフラワーになるには、家柄なんてまったく関係ない。
大体、家柄が関係あるなら私がフラワーになれているわけがないし。
なんとか言いたいことを伝えようとするけれど、こうなった美藤さんはなかなか止まってくれない。
私の話を聞こうともせず、「それに見てください!」と私と黒羽さんの間を通るように和室に入って行く。
そのため、なんとなくそれまでつないでいた黒羽さんの手が自然と離れた。
あ、と……なんとなく寂しさを感じていると、それを打ち消すように美藤さんの嬉々とした声が華道部の部室に響く。
「ほら、この独創的な生け花! あたしが生けたのですけれど、この花のようにあたしが学園に新しい風を起こして見せますわ!」
「……」
「……独創的?」
美藤さんが指した花器に生けられた花を見て、私は沈黙し、隣の黒羽さんからは控えめな疑問の声が聞こえた。
季節の花が使われているのは問題ないと思う。
ただ、生け方がなんとも前衛的過ぎて不格好にすら見える。茎がまっすぐの花をナナメにしたり、ふつうは添え物のカスミソウを森のようにもっさりと乗せていたり。
ちょっと、私にはよさがわからないよ……。
何も言わない私を見て、美藤さんは納得したと思ったのか満足そうに胸を張っていた。
この様子が、周囲から残念フラワーと呼ばれている所以なんだ。
でもまあ、それも含めてかわいがられている感じもあるんだよね。
憎めないっていうか。
この生け花に関しても、一部にはかなり人気があるみたい。
「さすがトレニア様」
「革新的な考えを持っているのね」
と支持している声が今も聞こえてくるもの。
「ま、まあ。どうなるにせよ、決まる前に言いふらすのは品がいいとは言えないと思うから……ほどほどにね」
何を言っても伝わりそうにないと思った私は、最後にそう言って黒羽さんの手をまた握り、早々にその場を後にする。
今度は黒羽さんも戸惑うことなく手を引かれてくれたから、すんなり歩き出すことができた。
部室棟を出る間に私たちを見て、またヒソヒソ何か言っている子もいたけれど、それこそ気にするだけ損だし。
とにかくこれ以上美藤さんに絡まれたくなくて、部室棟を足早に抜けていった。



