それからゆるゆると月日は流れて、(みかど)の時代は十八年になった。
二十八歳であられるけれど皇子(みこ)はいらっしゃらない。
「人生はあっという間だから、早く気楽な立場になって、会いたい人に会い、趣味などをしてのんびりと暮らしたい」
と長年おっしゃっていたところ、重いご病気におなりになって、突然帝の(くらい)をお()りになったの。
世間の人々は()しんでいる。
東宮(とうぐう)様が新しい帝におなりになった。
すでに二十歳でいらっしゃるから、立派に政治を()()ぎなさって、とくに問題はないわ。

同時に太政(だいじょう)大臣(だいじん)様も政治家を引退なさった。
<まだお若くすばらしい帝でさえ位をお()りになるのだから、私のような年寄りが引退したところでもったいないなどということはないだろう>
あとをお任せになったのは、新しい帝の伯父君(おじぎみ)、つまり玉葛(たまかずら)(きみ)夫君(おっとぎみ)で、この方が右大臣(うだいじん)におなりになった。
帝の母君(ははぎみ)でいらっしゃる承香殿(しょうきょうでん)女御(にょうご)様は、残念ながらすでにお亡くなりになっている。
ご自分が生んだ皇子(みこ)様が帝におなりになるところを、その目でご覧になりたかったでしょうにね。

新しい東宮には、明石(あかし)女御(にょうご)様がお生みになった皇子様がおなりになった。
六条(ろくじょう)(いん)(むらさき)(うえ)がひとりじめしてかわいがっていらした皇子様よ。
帝の最初の皇子様だし、源氏(げんじ)(きみ)姫君(ひめぎみ)がお生みになった皇子様だから、当然そうなるだろうと誰もが思っていたわ。
源氏の君のご子息(しそく)大将(たいしょう)兼任(けんにん)したまま大納言(だいなごん)になって、ますますご立派でいらっしゃる。
でも、大納言様とお呼びするにはお若すぎるから、このまましばらく大将様とお呼びいたしましょう。