野いちご源氏物語 三四 若菜(わかな)下

見物(けんぶつ)席においおいと泣く声が響く。
我々(われわれ)年寄りは酒を飲むと涙もろくなるな。衛門(えもん)(かみ)がこちらを見て笑っているではないか。あぁ、恥ずかしい。しかし今に分かるだろう。年月は逆戻りはしない。老いは誰にもやって来るのだ」
(さかずき)を片手に源氏(げんじ)(きみ)がおっしゃる。

衛門の督様はびくりとして振り向きなさった。
それまで姿勢も(くず)さずお庭の舞をご覧になっていたのよ。
ご体調が悪くてじっとしていてもお苦しいから、正直なところ舞もろくに見えていなかったのに、源氏の君の方を振り向いたり、ましてや笑ったりなんてなさるはずがない。

それを源氏の君は()ったふりで()()しでお責めになった。
ちっとも(にご)っていないお目で、衛門の督様をにらみつけなさる。
ただのご冗談だとはお思いになれない。

お胸がつぶれるような気がなさる。
杯が回ってきたけれど頭痛がしてとても無理そうでいらっしゃる。
飲んだふりで次の人に回すと、源氏の君は見とがめて飲むまでお許しにならない。