<予行演習に衛門の督を呼ばなかったらさすがに世間があやしむだろう>
参上なさるようお伝えになったけれど、ご病気を理由に辞退なさった。
<それほどの重病とは聞いていない。罪の重さに苦しんでいるのだろう>
同情して特別にお手紙をお書きになる。
父君の元太政大臣様は驚いて、
「どうしてお断りしたのだ。反抗しているように思われたら困るだろう。たいした病気ではないのだから、元気を出して参上しなさい」
とおっしゃるから、苦しみながらも仕方なくお出かけになる。
まだ他の上級貴族たちが集まっていないころにご到着なさった。
いつものようにおそば近くにお呼びになるけれど、間には簾がかかっている。
源氏の君の方からは衛門の督様のお顔がよくご覧になれる。
痛々しいほどおやせになって、顔色は青白い。
もともと明るく陽気というよりも、落ち着いた態度に魅力のある方よ。
それが今日はさらに神妙にかしこまっていらっしゃるの。
<内親王様を妻にしても何の問題もない立派な人物だ。ただ私の妻に手を出したのはいけない。ふたりが私を軽んじたことが問題で罪なのだ>
そう思うお心のうちはまったく見せず、さりげなく優しくお話しになる。
「ひさしぶりですね。今年は体調を崩す女君たちが多くて本当に目まぐるしかった。女三の宮様が父上皇様のために祝賀会をしたいと仰せだったのが、延期につぐ延期で、もう十二月ですよ。
そちらは十月に盛大な祝賀会をなさったそうだね。こちらはそれほど大がかりなことをするつもりはないが、この機会に孫たちの舞をお目にかけたいと思いましてね。舞は何より拍子が大切だから、どなたかに拍子を合わせる指導をしてもらおうと考えたときに、やはり一番に思い浮かんだのはあなただった。それで何か月も来てくれない恨みも捨ててお招きしたのです」
本心からそう思っているようにおっしゃるから、衛門の督様はよけいに恥ずかしくて、しばらくお返事もおできにならない。
お心を落ち着かせて、やっと申し上げなさる。
「女君たちがご病気と伺ってご心配申し上げておりましたが、私も春の終わりから脚を悪くいたしまして、立つこともおぼつかなくなってしまいました。気力もおとろえていきましたので、参内もせず屋敷に引きこもっていたのでございます。
そうしていると父が騒ぎ出しまして、『今年は入道の上皇様が五十歳であられる。おかわいがりいただいたご恩を思えば、どなたよりも私が盛大な祝賀会をしてさしあげたい』と申します。それでも自分がすでに引退した身であることを気にして、『代わりにそなたがお祝いしてまいれ』と申しますから、無理をして父に言われるがままお祝いをいたしました。
私が拝見いたしましたところ、入道の上皇様はすっかり僧侶らしくおなりでしたから、派手な祝賀会はお望みでないように思われます。仰せになりましたとおり大がかりになさらず、姫宮様とゆっくりお話しできる場をご用意なさった方がおよろこびになるかと存じます」
ご正妻の女二の宮様の祝賀会を夫として取り仕切ったとはおっしゃらず、あくまで父君の祝賀会をお手伝いしただけと謙遜なさった。
そうすることで、「これは女三の宮様と姉宮様の競争ではない。それよりも本当に父上皇様がおよろこびになることは何か」ということを、源氏の君に賛成しながら角を立てずに助言なさったの。
<思慮深い男だ>と源氏の君は感心なさる。
「私もそういう会にするのがよいと思ったのだ。世間は手抜きだと言うだろうが、やはりあなたはよく分かっておられる。おかげでこの方針でよかったと安心しましたよ。大将は相談相手にならなくてね。内裏での仕事はそれなりにやっているようだが、こういう人の気持ちが大切なことになると、どうも想像力が働きにくいらしい。
入道の上皇様は何でもおできになる方だけれど、とくに音楽がお好きだった。ご出家なさって遠ざかっていらっしゃるから、お耳は研ぎ澄まされておられるだろうね。中途半端な音楽ではいけないな。
あなたは大将と一緒に舞の子どもたちに最終指導をしてやってください。専門の師匠が動きなどはしっかり教えてあるはずだが、心構えのようなことまでは行き届いていないだろう。そういうところはやはり、あなたたちにしか教えられませんからね」
親しみやすい調子でおっしゃるから、うれしくはあるけれど心苦しくも申し訳なくもなってしまわれる。
少しでも早くこの場から去りたくて、普段どおり話しこむこともせず、逃げるように退出なさった。
そのまま夏の御殿に向かわれる。
予行演習がはじまる前に楽団と舞人の衣装の確認をなさるの。
十分に整っていたけれど、さらに工夫できる点を助言された。
するといっそう立派な雰囲気になるのだから、やはりこういう風流な方面では特別な才能のある方でいらっしゃる。
参上なさるようお伝えになったけれど、ご病気を理由に辞退なさった。
<それほどの重病とは聞いていない。罪の重さに苦しんでいるのだろう>
同情して特別にお手紙をお書きになる。
父君の元太政大臣様は驚いて、
「どうしてお断りしたのだ。反抗しているように思われたら困るだろう。たいした病気ではないのだから、元気を出して参上しなさい」
とおっしゃるから、苦しみながらも仕方なくお出かけになる。
まだ他の上級貴族たちが集まっていないころにご到着なさった。
いつものようにおそば近くにお呼びになるけれど、間には簾がかかっている。
源氏の君の方からは衛門の督様のお顔がよくご覧になれる。
痛々しいほどおやせになって、顔色は青白い。
もともと明るく陽気というよりも、落ち着いた態度に魅力のある方よ。
それが今日はさらに神妙にかしこまっていらっしゃるの。
<内親王様を妻にしても何の問題もない立派な人物だ。ただ私の妻に手を出したのはいけない。ふたりが私を軽んじたことが問題で罪なのだ>
そう思うお心のうちはまったく見せず、さりげなく優しくお話しになる。
「ひさしぶりですね。今年は体調を崩す女君たちが多くて本当に目まぐるしかった。女三の宮様が父上皇様のために祝賀会をしたいと仰せだったのが、延期につぐ延期で、もう十二月ですよ。
そちらは十月に盛大な祝賀会をなさったそうだね。こちらはそれほど大がかりなことをするつもりはないが、この機会に孫たちの舞をお目にかけたいと思いましてね。舞は何より拍子が大切だから、どなたかに拍子を合わせる指導をしてもらおうと考えたときに、やはり一番に思い浮かんだのはあなただった。それで何か月も来てくれない恨みも捨ててお招きしたのです」
本心からそう思っているようにおっしゃるから、衛門の督様はよけいに恥ずかしくて、しばらくお返事もおできにならない。
お心を落ち着かせて、やっと申し上げなさる。
「女君たちがご病気と伺ってご心配申し上げておりましたが、私も春の終わりから脚を悪くいたしまして、立つこともおぼつかなくなってしまいました。気力もおとろえていきましたので、参内もせず屋敷に引きこもっていたのでございます。
そうしていると父が騒ぎ出しまして、『今年は入道の上皇様が五十歳であられる。おかわいがりいただいたご恩を思えば、どなたよりも私が盛大な祝賀会をしてさしあげたい』と申します。それでも自分がすでに引退した身であることを気にして、『代わりにそなたがお祝いしてまいれ』と申しますから、無理をして父に言われるがままお祝いをいたしました。
私が拝見いたしましたところ、入道の上皇様はすっかり僧侶らしくおなりでしたから、派手な祝賀会はお望みでないように思われます。仰せになりましたとおり大がかりになさらず、姫宮様とゆっくりお話しできる場をご用意なさった方がおよろこびになるかと存じます」
ご正妻の女二の宮様の祝賀会を夫として取り仕切ったとはおっしゃらず、あくまで父君の祝賀会をお手伝いしただけと謙遜なさった。
そうすることで、「これは女三の宮様と姉宮様の競争ではない。それよりも本当に父上皇様がおよろこびになることは何か」ということを、源氏の君に賛成しながら角を立てずに助言なさったの。
<思慮深い男だ>と源氏の君は感心なさる。
「私もそういう会にするのがよいと思ったのだ。世間は手抜きだと言うだろうが、やはりあなたはよく分かっておられる。おかげでこの方針でよかったと安心しましたよ。大将は相談相手にならなくてね。内裏での仕事はそれなりにやっているようだが、こういう人の気持ちが大切なことになると、どうも想像力が働きにくいらしい。
入道の上皇様は何でもおできになる方だけれど、とくに音楽がお好きだった。ご出家なさって遠ざかっていらっしゃるから、お耳は研ぎ澄まされておられるだろうね。中途半端な音楽ではいけないな。
あなたは大将と一緒に舞の子どもたちに最終指導をしてやってください。専門の師匠が動きなどはしっかり教えてあるはずだが、心構えのようなことまでは行き届いていないだろう。そういうところはやはり、あなたたちにしか教えられませんからね」
親しみやすい調子でおっしゃるから、うれしくはあるけれど心苦しくも申し訳なくもなってしまわれる。
少しでも早くこの場から去りたくて、普段どおり話しこむこともせず、逃げるように退出なさった。
そのまま夏の御殿に向かわれる。
予行演習がはじまる前に楽団と舞人の衣装の確認をなさるの。
十分に整っていたけれど、さらに工夫できる点を助言された。
するといっそう立派な雰囲気になるのだから、やはりこういう風流な方面では特別な才能のある方でいらっしゃる。



