野いちご源氏物語 三四 若菜(わかな)下

(おんな)(さん)(みや)様がふさぎこんでおられることをお耳になさって、入道(にゅうどう)上皇(じょうこう)様は心配していらっしゃる。
さらには、「源氏(げんじ)(きみ)(むらさき)(うえ)二条(にじょう)(いん)にお移りになったままで、六条(ろくじょう)(いん)にほとんどお戻りにならない」とお聞きになったから、どういうことだと驚かれる。

<紫の上の看病のために三月に二条の院に移られたとは聞いていた。それですらよい気分はしなかったのに、もう半年以上もそのままだというのか。何か夫婦仲が悪くなるようなことが起きたのだろうか。姫宮(ひめみや)が知らないところで、悪口好きな女房(にょうぼう)がよけいなことを源氏の君に申し上げたのかもしれない。内裏(だいり)でも、火のないところに(けむり)を立てて意地悪く楽しむ不届(ふとど)(もの)がいたものだ>

世間と(えん)を切るのが出家(しゅっけ)だから、本当は姫宮様の心配などなさってはいけないのよ。
でも、親心だけは捨てられないわよね。
姫宮様に(こま)やかに言い聞かせるようなお手紙をお書きになった。
「しばらくやりとりをしていなかったから、あなたがどうしているか心配しています。懐妊(かいにん)のことを聞いてからは(ほとけ)様にあなたのことをお祈りしていますが、体調はいかがですか。結婚生活が(むな)しくなったり、心外(しんがい)なことが起きたりしても、我慢してお過ごしなさい。(うら)めしそうな態度をとるのは品のないことですよ」

源氏の君は義務として、ときどき姫宮様のところにお越しになっている。
ちょうどそのときだったので、ご一緒にお読みになった。
<これほどご心配をおかけして、お気の毒で心苦しい。どんなことがあったかご存じないのだから、私が悪いとお思いだろう>
源氏の君は恐縮(きょうしゅく)すると、冷たいお声で宮様におっしゃる。
「お返事はどうお書きになるおつもりですか。このようなお手紙をいただいたら私の方がつらい。こちらこそ心外なことが起きたけれど、あなたのご体面(たいめん)はお守りしているはずですよ。誰がよけいなことを申し上げたのだろう」

恥ずかしがって宮様はお顔を(そむ)けなさる。
そのお姿がとても可憐(かれん)なの。
お顔がやせて物思いに(しず)みこんでおられるのが、上品でお美しい。