野いちご源氏物語 三四 若菜(わかな)下

いつもどおりになさっているおつもりだけれど、(むらさき)(うえ)源氏(げんじ)(きみ)のご表情が暗いことに気づかれた。
<こちらにいらしても姫宮(ひめみや)様のことがご心配なのだろう>
と思って、
「私の方はずいぶん気分もよくなりましたから、ご体調のお悪い宮様のところへお戻りになっては。お気の毒でございます」
とお(すす)めなさる。

「あぁ、それがご病気かと思えばそうではなくてね。ご懐妊(かいにん)らしいから、それなら大丈夫だろうとこちらに帰ってきたのですよ。(みかど)からはたびたびお使者(ししゃ)が来ているようだ。入道(にゅうどう)上皇(じょうこう)様がとりわけ大切にされた姫宮様だから、帝も()(づか)っておいでなのだろうね。私が少しでも軽んじたようにお(あつか)いしたら、どうお思いになるだろうかと恐れ多い」
「帝や入道の上皇様がどうお思いになるかよりも、姫宮様ご本人がお悲しみになることの方が問題でございましょう。いくらおっとりした宮様でも、周りにあなたのことを悪く言う女房(にょうぼう)がきっといるでしょうから、そうなっては私が心苦しいのです」

「あなたは宮様の年上の従姉(いとこ)として、宮様のお味方をなさるというわけですね。女房の言うことまで気にして、なんともお優しいご後見(こうけん)ぶりだ。帝や上皇様からのお(しか)りだけを恐れている私とは違いますね」
笑ってごまかしてしまわれる。
「次に六条(ろくじょう)(いん)に戻るときは、あなたもご一緒に帰りましょう」
「私はもうしばらくこちらで体を休めてまいります。どうぞ先にお戻りください。姫宮様があなたのご愛情を十分にお受け取りになったころ、私も戻りましょう」
そうおっしゃっているうちに何日も()ってしまった。