野いちご源氏物語 三四 若菜(わかな)下

源氏(げんじ)(きみ)二条(にじょう)(いん)へお帰りになったので、女房(にょうぼう)たちはそれぞれの仕事に戻っていく。
おそばに人がいなくなったのを見て小侍従(こじじゅう)姫宮(ひめみや)様に近づいた。
「昨日お見せしたお手紙はどうなさいましたか。今朝源氏の君が似たような色のお手紙をご覧になっていたのです」
小声でそっと申し上げる。
<手紙のことなどすっかり忘れていた。見つかってしまったなんて>
宮様は恐ろしさで震えながらお泣きになる。

小侍従はおかわいそうにとは思うものの、あきれる気持ちもある。
「お手紙はどこにお置きになったのですか。あのとき他の女房が何人かやって来る気配(けはい)がしましたから、『姫宮様と内緒(ないしょ)(ばなし)をしているとあやしまれてはいけない』と思っておそばを離れたのでございます。それから源氏の君がお越しになるまでしばらく時間がありましたから、その間にうまくお隠しになったとばかり思っておりました」
「それがね、手紙を読んでいたら源氏の君がお越しになって、敷物(しきもの)の下に隠したのだけれど、それをうっかり忘れていたの」
小侍従はため息をつく。

敷物の下を探してみるけれど、もちろんお手紙はない。
「あぁ、とんでもないことになりました。衛門(えもん)(かみ)様だって源氏の君を怖れておられたけれど、すぐにばれてしまいましたね。何もかも姫宮様が子どもっぽくていらっしゃるからですよ。何年か前に衛門の督様にお姿を見られてしまったときだってそうです。あんなうっかりをなさったせいで、あの方はあなた様に夢中になったあげく、手引きするよう私をしつこくお責めになって、でもまさかこんな結末(けつまつ)になるだなんて思いもよらないではありませんか。衛門の督様、源氏の君、姫宮様、どなたにとっても困ったことになりますよ」
幼いころから慣れ親しんだ乳母子(めのとご)だから、遠慮なく姫宮様をご非難(ひなん)するの。

返事もできずに宮様はひたすらお泣きになる。
おつらくて何も召し上がることができない。
「こんなにお苦しみでいらっしゃるのに、よくもまぁ放ってお帰りになりましたこと。あちらは危篤(きとく)状態から持ち直しなさったというではありませんか」
他の女房たちは源氏の君のご冷淡(れいたん)さに腹を立てている。