野いちご源氏物語 三四 若菜(わかな)下

(むらさき)(うえ)と離れて六条(ろくじょうの)(いん)へ行くのはお気が進まないけれど、(みかど)入道(にゅうどう)上皇(じょうこう)様がどう思われるか気がかりでお出かけになる。
姫宮(ひめみや)様は衛門(えもん)(かみ)様とのことが申し訳なくて、源氏(げんじ)(きみ)がお話しかけになってもお返事をなさらない。
<ちっともこちらに(うかが)わなかったから、つらく思っていらっしゃるのだろう>
とお気の毒で、あれこれお(なぐさ)めになる。

女房(にょうぼう)を呼んでどんなご病気なのかお尋ねになる。
「ご懐妊(かいにん)なさっているのでございます」
源氏の君は驚いて、
「なんと。めずらしいことだ」
とだけおっしゃる。
<長年一緒にいた女君(おんなぎみ)たちとの間にも、ここ二十年近くそのようなことはなかったのに>
もしかしたら勘違いの可能性もあるから、はっきりと具体的なお話はなさらず、ただご体調を()(づか)われる。
いつも以上に弱々しいご様子が可憐(かれん)だとお思いになるの。

さっさと二条(にじょう)(いん)にお帰りになるわけにもいかず、二、三日お泊まりになる。
でも紫の上のことが心配で、しょっちゅうお手紙をお書きになっている。
「ほんの少しの間でどうしてそんなにおっしゃりたいことが出てくるのでしょうね。姫宮様がご懐妊なさってもこれでは、まったく失礼で不安だこと」
姫宮様の(あやま)ちを知らない女房たちはただ源氏の君をお(うら)みする。
小侍従(こじじゅう)だけはひやひやしながら()()きを見守っていた。