野いちご源氏物語 三四 若菜(わかな)下

姫宮(ひめみや)様のご体調がお悪いと聞いて、源氏(げんじ)(きみ)はお見舞いにいくことになさった。
その前に(むらさき)(うえ)のお部屋へ行かれると、女君(おんなぎみ)はお(ぐし)を洗わせていらっしゃる。
暑い時期だから、少しご気分もさわやかにおなりになった。
横になったまま長いお髪を乾かされる。
美しく豊かな黒髪が、青白くなったお顔に()える。
()けるようなお肌がとても可憐(かれん)なの。
でもまだまだお元気がない。

二条(にじょう)(いん)は長年()()になっていたから、六条(ろくじょうの)(いん)に比べたら少し荒れていて、手狭(てぜま)にも感じられる。
ただ、お庭のお池は涼しげよ。
(はす)の花が()(ほこ)って、青々(あおあお)とした葉に(たま)のような(つゆ)がきらきらと光っている。
「あれをご覧なさい。自分ひとり涼しそうにしている」
紫の上はお体を起こして外をお(なが)めになった。
ひさしぶりのそんなお姿に源氏の君は感動なさる。
「ここまで回復なさって夢のようです。私まで死んでしまいそうな気のするときもあったから」
涙を浮かべておっしゃる。

悲しそうに紫の上はお返事なさる。
「私の残りの命は、あの蓮の葉にかかった露が消えるまでくらいでしょう」
「たとえそうだとしても、来世(らいせ)でも私たちは一緒ですからね。同じ蓮の上に生まれかわるのですよ。あなたも信じていてください」
お約束は来世のことになってしまうの。