そのまま東宮(とうぐう)様のお部屋に上がってご挨拶(あいさつ)をなさった。
東宮様は姫宮(ひめみや)様の兄君(あにぎみ)であられるから、お顔立ちが似ておいでだろうかと拝見なさるけれど、どうかしら。

お部屋のなかを()(ねこ)がかわいらしく歩きまわっている。
(みかど)がお飼いになっている猫がたくさん子どもを生んで、そのうちの一匹を東宮様がいただかれたの。
六条(ろくじょう)(いん)の女三の宮様のところにめずらしい顔立ちの猫がおりました。ほんの少し見かけただけでございますが」
猫好きの東宮様がくわしいことをお尋ねになったので、衛門(えもん)(かみ)様はお答えする。
「中国の猫でしょうか、こちらの猫とは見た目が違っておりました。猫は猫ですけれど、(ひと)(なつ)こい猫はたいそうかわいらしいものでございますね」
わざと東宮様のご興味を引くようにおっしゃる。